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 デート当日は、登校時と同じく陽史が家の前まで迎えにきてくれた。約束の時間ぴったりに鳴ったインターフォンの音を聞いて、龍之介はすかさず玄関を出る。 「おはよう、龍之介。……って、なんか気合入ってんな」  龍之介の頭のてっぺんから足元まで見下ろして、陽史は苦笑した。  今日の龍之介のファッションは、黒のTシャツに紺のカジュアルスーツを合わせた渋めのスタイルだ。白ニットに茶色のチノパンという地味な陽史のコーデとは大違いである。 「陽史の彼女と会うんだからな。身だしなみはきちんと整えておかないと」  胸を張って答えると、陽史は「そっか」ともう一度苦笑した。二人並んで駅までの道を歩き出す。 「でも龍之介、ほんとによかったのか? せっかくの休日なのに、わざわざ俺のデートについてきたりなんかして」 「……別に。もともと休日はおまえと遊ぶことが多かっただろう」  元はといえば、陽史の休日は龍之介のものだったのだ。まるで龍之介がおまけみたいな言い方は、どうにも腑に落ちない。  「それはまあ、そうだけど……」  ぽりぽりとこめかみを掻きながら、陽史もまた困ったように口ごもった。  そうだけど、何なんだ。曖昧なまま途切れた会話に、龍之介は少しもやっとする。 「それにしても、今日は晴れてよかったな。映画見にいくんだし、あんま関係ないっちゃないんだけど」  ぱっと話題を変えて、陽史が眩しそうに空を見上げた。「ああ、うん……」と、龍之介もつられて空を見上げる。昨日、部屋中にてるてる坊主を逆さ吊りにして豪雨を呼び寄せる儀式をしていたのだが、どうやら効果はなかったようだ。  何てことない会話を交わしながら電車に乗り込み、降りた駅のホームで陽史の彼女らしき人物を発見した。龍之介たちより早く待ち合わせ場所に来ていたその華奢な女の子は、こちらの姿に気づくなりはっと佇まいを正す。 「ごめん真美ちゃん、待った?」  隣を歩いていた龍之介に構わず小走りで彼女へと駆け寄って、陽史が尋ねる。『真美ちゃん』と呼ばれたその女の子は、ふるふると首を横に振って「全然だよ」と答えた。 「あ、えっと……」  ちろと、窺うような視線を向けられる。  黒い瞳に黒い髪。一見地味にも思えるが、さり気なく整った容姿に、その素朴さはいい意味で活きていた。イエローの花柄ワンピースがよく似合っている。 「あ、言ってた俺の幼馴染。空閑(くが)龍之介って言って……」  たじたじと紹介する陽史に代わり、龍之介は口を開いた。 「空閑龍之介だ。今日は、俺が幼稚園のときから面倒を見てやっている陽史に彼女ができたと聞いて、ぜひとも挨拶をと顔を出させてもらった。よろしく」  差し出した右手を、真美は困惑したように目を瞬いて見つめる。 「え、えっと……挨拶って……」  呟いた真美と前後して、陽史が焦ったように龍之介の腕を引っ張った。 「お、おい龍之介……!」 「何だ」  平然と返すと、陽史はモノ言いたげな顔で押し黙る。しばらくしてぱっと腕を離すと、一息ついて真美へと向き直った。 「ごめん真美ちゃん。チャットでも言ったんだけど、今日見にいく映画、ちょうど龍之介も見たいやつだったらしくて……」 「ああ、うん……! 全然、気にしないで。あの映画、今人気だもんね」  知らぬ間に、龍之介が映画を見たかったことになっているらしい。 「自己紹介が遅れてごめんなさい。私、飾磨(しかま)高校二年の江花(えはな)真美っていいます。今日はよろしくお願いします」  丁寧に自己紹介をして、真美はぺこりと頭を下げた。  飾磨高校といえば、ここから二駅ほど先にある人気の女子校だ。そうとわかれば、いかにも純朴そうな見た目にも納得がいった。 ──────────────  試し読みは以上になります。  続きは下記のリンクから、Amazon Kindleにてお読みいただけます。 ・富めるときも貧しきときも【上】  →https://amzn.asia/d/01yRObGf ・富めるときも貧しきときも【下】  →https://amzn.asia/d/02vdUfsv

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