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「え。いや、いいよ。龍之介がいると、真美 ちゃん気ぃ遣うだろうし……」
翌日の昼休み。今週末、彼女とデートすると言った陽史に付き添いを申し出たところ、返ってきたのはそんな困惑じみた反応だった。
「いくない! 俺がついて行ってやると言ってるんだから、おまえの返事は『はい、よろしくお願いします』の一択だろうが!」
「や、それはちょっと……。ていうか、龍之介は何でそんなについてきたいわけ……?」
この大間抜けめっ、と龍之介は心の中で吐き捨てた。龍之介がついていきたいんじゃない。陽史のために、ついていってやると言っているのだ。
「陽史こそ、何でそこまで頑なに俺の付き添いを拒むんだ! まさか、デートと託つけて昼間っから彼女といかがわしいことをしようだなんて考えているんじゃないだろうな!」
「なっ、そんなわけないだろっ。変なこと言うなって……!」
「だったら俺がいても構わないだろう。幼稚園からの幼馴染に初の彼女ができたんだ。挨拶くらいして当然だ」
ふんぞり返って言った龍之介に、陽史はふぬぬと押し黙った。いつもならもう少し早く折れるはずなのに、今回はやけに頑なだ。そこまで強情だと、こちらもまた絶対に引くわけにはいかないという気持ちになってくる。
「おまえが断るなら、俺は勝手に後をつけさせてもらうからな! 早起きしておまえが家から出てくるのを待っててやる!」
「いや、待っててやる! って……」
そうだ。最悪、陽史が許可しなくたって勝手に後をつけてやれば問題ない。龍之介の行動を制限する権利までは、陽史にはないはずだ。
「……はあ」
ふと、深い溜め息を溢して、陽史ががっくしと肩を落とした。
「なっ、何だその態度はっ! 陽史のくせに生意気だぞっ!」
「わかった。わかったって。それじゃあ、真美ちゃんにおまえも来るって伝えておくから」
「え、それって……」
つまり、龍之介もデートに付き添っていいということだろうか。よしっ! と龍之介は心の中でガッツポーズを決める。
「でも龍之介。真美ちゃんの前では、その……そういう態度、やめてくれよな」
「え? そういう態度って?」
きょとんと首を傾げた龍之介に、陽史は困ったように眉尻を下げた。
「それは、その……つまり……」
続く言葉を待っていると、しばらくして「はあ……」と浅い溜め息を零す。
「やっぱ何でもない。龍之介は龍之介だもんな」
「は? 何だそれ」
それは、龍之介は龍之介に決まっている。龍之介が龍之介じゃないほうが意味がわからない。何をおかしなことをと首を傾げた龍之介を見て、陽史は肩を竦めてふっと笑った。
「龍之介には敵わないなぁ」
天を仰ぐように言った陽史を、龍之介は無言でじっと見つめる。
「……当たり前だ」
ぽそりと返し、ふいと陽史から視線を逸した。
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