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第1章 第9話 発情期あけ
僕とハジメは互いに求めるまま何度も身体を重ねた。発情期の濃密な時間が過ぎて行き、意識がはっきりとしたのは数日たってからだ。
「大丈夫か? さあ、これ飲んどきな。卒業までは気ぃつけたほうがええからな」
ハジメから手渡たされたのは避妊薬だった。
「……ありがど……」
叫びすぎて喉が枯れて声が出ない。
「身体の具合はどうや? 横になっときな。何が食べたい? お粥でも作ろうか?」
「……うん」
ハジメはせっせと部屋の片づけや洗濯もしてくれる。僕が動かなくてもいい様に何かを頼む前にすでに準備がされているからふしぎだ。いつの間にか僕の行動パターンが全部わかってしまっているようだ。こういうところはさずがアルファという事なのだろうか?
それにハジメの顔が緩んでるのがわかる。ずっと嬉しそうに二ヤけているのだ。
(恥ずかしい……。あからさまに喜びすぎだよ)
食事の度にハジメの膝の上に座らせられる。
「すぐるはまだ足腰に力が入らんやろ? 遠慮せんでええ」
「いや、恥ずかしいよ」
「この部屋には二人きりやないか。誰も見てないから恥ずかしがらんでええよ。ほんまにすぐるは可愛いなぁ」
額にキスをされ顔が熱くなる。これはあれだ、『甘~い』とか叫びたくなるやつじゃないだろうか? めちゃくちゃ照れくさい。
風呂に入るときもハジメと一緒だ。ついでにあちこちさわられて余計な汗までかいてしまう。とにかく何をするのも嬉しそうなのだ。その顔を見ると大抵のことは許してしまう。
「風呂ぐらい一人で入れるよ」
「何言うてんねん。俺の見てないところですぐるがのぼせてしまったら大変やないか。遠慮せんでええって。俺が洗ってやるから」
「ちょっ。そんなとこ……ぁ。もぉっ」
「そうやな。つづきはベットでしような」
ほとんど発情期も終わりかけているのにいつまでたってもハジメは離れようとしない。僕が何を言っても可愛いだの、遠慮するなだの、心配だとべったりくっついてくる。
更に数日がたち、僕はすっかり発情期をあけた。それでもハジメは相変わらずだ。夜は求められれば拒めないし、甘やかされてダメ人間になりそうだ。日中は身体がきついせいか起きれない日が続きだした。
ハジメの事は好きだし抱かれるのも嫌じゃない。嬉しいし幸せだなって感じてはいる。一緒に居ると満たされるのも確かだ。
でもこの状態は何か違う。そろそろ僕も大学に復帰しないといけない。そのために東京から出てきたのだし。
ハジメごめんよと心の中で謝って僕は朝比奈にメールを送った。
「あほか! 図体のデカイ男がいつまでくっついてんのや! 暑苦しい!」
次の日、早速朝比奈はやってきてくれた。しかも開口一番、ハジメに向かって直球を投げた。
「しつこい粘着男は嫌われるで! すぐる君の自由も考慮したらなあかんやろが!」
「うるさいわ。やっと想いが叶ったんや。好きにさせてくれや」
僕は後ろからハジメに抱かれる格好でソファーに座っていた。
「あほぬかせ! お前すぐる君を抱き枕と勘違いしとるんとちがうか? それとも何か? やっぱお前は童貞やったんやな? せやから今、猿状態なんか?」
「……ぐうっ……」
ハジメが唸ったまま固まった。
「え? ……」
「へ? ……ほんまに? ……ぷっ!」
くはははと朝比奈がソファ―の上でおなかを抱えて転がる。
「うっ……うるさいわい。それがどうした!」
「ぁの。僕も。僕もはじめてだったので……」
「すぐるっ。そ……そうか。俺がはじめてか。そうやろ。そうやろ」
ハジメが嬉しそうに背後からぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
いや、でもハジメが童貞だなんてありえない。だって……。
「でもっ。ハジメは……朝比奈さんと……その……寝てたって」
「はぁ? なんじゃあそりゃあ?」
「だって。朝比奈さんが……」
「どういうこっちゃ!」
ハジメが朝比奈を睨みつける。
「はて? 何のことかな?」
朝比奈が首を傾ける。しばらく宙をみていたが、あ! と思い出したように苦笑いをした。
「ぁあ、あれか。幼稚園の時の話しやで。すぐる君ウダウダしてたからな、ちょっと意地悪したくなってん」
朝比奈がウィンクしながらふふんと鼻を鳴らした。
「ええ? ようちえん? そんな……」
(やられた……)
「このっ! あほんだら! すぐるに心配させること言いやがって」
あの後、朝比奈がハジメの車に乗っていたのもデートではなく、朝比奈の事業に賛同してくれそうな投資先にハジメが紹介するためだったようだ。ハジメの父親が懇意としている大企業の方だったらしい。
「……ほんまにごめんやで。それがきっかけで長谷川に拉致されたとは思わんかったわ」
朝比奈は青い顔になり悪かったと頭を下げてきた。
「いえ。朝比奈さんには感謝してます。僕の覚悟を決めるきっかけになったので」
「ほ~お。という事は二人はつきあいだしたって事やね?」
「あの。それはまだ言われてなくてっ……」
途端に朝比奈の顔が引き攣り、ハジメが慌てだした。
「はあ? なんやハジメ! てめえ、つきあってくれって言う前に手を出したんか!」
「え? あれ。言うてなかったっけ? わわ、悪い。俺あのときいっぱいいっぱいで」
「あほか! お前ってやつは……」
「あ、あの。僕は、ハジメがいいんです! は、ハジメ。僕と付き合ってください」
「すぐるぅ~。つきあう。つきあうよ! 俺のほうこそ。つきあってって言いそびれてごめん!」
「ハジメお前……まさかと思うが大事なとこ言う前に、体の関係から堕とそうって思ったんやないやろな?」
「ぐ……いや。それは……」
「図星か! 最低な男やな! すぐる、こんなやつでほんまにいいんか? もっとええ奴いっぱいおるで! 考え直すなら今やで」
「いいえ。僕はハジメが好きなんです。ハジメと居ると安心するし一緒に居たいって思える」
言ってしまった傍から顔が熱くなってきた。これって惚気てるってこと? 恥ずかしい。
「ふっふっふ。どうや。すぐると俺は両想いなんや」
「ったく。立ち直りが早いな。その自慢げなハジメの顔が腹立つ。……丸く収まったならそれでいいが。心配した分、いっぱつ殴らせろ」
パシンっと朝比奈がすぐるの頭を叩いていた。
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