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第1章 第10話 僕のナンバーワン
「朝比奈さん。ありがとうございました」
「なんやあらたまって?」
「僕、自分がわからなくなっていたんです。ハジメへのこの気持ちも、もしかしたらバース性に引きずられてるのかと。オメガの習性がそうさせるなら、アルファなら誰でもいいのかとか思うと自分自身が怖かったんだ」
「そんなことないやろっ。すぐるはそんなやつじゃない」
「ありがとう。ハジメ。それだけ僕も戸惑ってたんだ。だから、朝比奈さんが協力してくれなかったらまだ悩んでたと思う」
「……そうかぁバレてたか」
「ええ。あの夜、僕は夢かと思ってましたがあの母の映像は3Dですよね?」
「そうや。ハジメに聞いてすぐる君が悩んでるみたいやと思ってな。寝てる間にちょっと部屋に仕掛けをさせてもらってん。しゃべった内容はあらかじめ設定されてた台詞やったけど。きっとすぐる君のお母さんやったらこう言いたいんやないかなって思ったんや」
「ありがとうございます。本当に母と話しが出来たみたいでよかったです」
「すまん。俺が朝比奈に頼んでん。お前があんまり思い詰めてたみたいやったから……。でもようわかったな?」
「ええ。だってあれは僕が試験的に作っていたアバターだったんです」
「それもバレてたかぁ。さすがやなあ。時間がなくてな、すぐる君のアバターから情報を引き出して年齢だけ加算して作ったんや。きっと親御さんはすぐる君に似てると思ってなぁ」
「そうだったんですね……。でも発想がすごいですね。こんな短時間でプログラミング力があります」
「おいっ。なんやなんや。二人だけでわかる話をして。俺をのけものにする気か?」
ハジメが朝比奈を牽制するように後ろからまたぎゅうっと抱きしめてきた。
「なんやー、ヤキモチ焼きの男はみっともないで〜」
「ふふ。ハジメったら、可愛いとこがあるんだね」
「か、かわいい? 俺がか?」
「ぶあっはは! ハジメもすぐる君にはかなわんな! 可愛い可愛いはっじめちやーん」
「う、うるさいわい! すぐるに言われるんは良いがお前には言われたくないわ」
「なんや、それ、えこ贔屓する気か?」
「ふふふ。やっぱり二人は仲がいいね」
「どこがや!」
「なんでや!」
「ふふ。そういうところが仲がいいって言うんですよ」
◇◆◇
夏休みが終わり後期の選択科目はデジタルメディアを選んだ。
ハジメは最初は不貞腐れていたが帰りは必ず一緒に帰ると約束すると機嫌を直した。
あれから僕とハジメは正式に付き合う事になった。
「すぐる。卒業と同時に俺と結婚してくれ」
「結婚? 本気なの? 僕は男だよ?」
「俺は本気や。性別は関係ない。すぐる以外とは考えられん。親父にもすでに連絡してある。次のコレクション発表が終わったら帰国するって言うてるから、その時に会ってくれ」
ハジメの父親は有名なデザイナーで各国を飛び回ってると聞く。
「反対されるんじゃない?」
「反対なんてさせるかいな。それに俺が選んだ相手に文句を言うような人やないよ。何でも自己責任やって言い放つ人やで」
「気に入ってもらえるかな」
「もちろん。そやから……返事もらえる?」
ハジメが緊張した面持ちで僕を見つめてる。
「……まいったな。その顔に僕は弱いんだよね」
「すぐる。好きや。お前の事が大好きや。朝比奈やないが、俺もすぐるが俺の生涯の番やと思う。何があっても俺が大事にする。お前の事は俺が守る。絶対一人になんてさせへん。ずっと俺の傍に居てくれ!」
その必死さが胸に迫る。ドキドキして顔が熱い。
「ハジメ。ありがとう。僕もハジメが好きだよ。ずっと一緒に居たい。でも、守られるだけは嫌だ。僕だってハジメを守りたい」
それからのハジメの行動力はすごかった。
次の週には祖父に会いに東京まで行くことになり、ハジメが僕の思いを代弁してくれた。涙ぐむ祖父を見たのは初めてだった。
ああ。やっぱり祖父は心の奥では母の事をわかろうとしてくれてたんだ。そう思うと胸がいっぱいになった。
頑固な祖父は僕らの事を許すとは言ってくれなかったが
――――「また来いよ」と声をかけてくれた。
それだけでもう僕には充分だ。ありがたい。
次の彼岸には母の墓参りにハジメと一緒に行く予定だ。
「すぐる! どうや? ハジメとはぼちぼちやってるか?」
朝比奈が声をかけてきた。
「ふふ。そうだね。ぼちぼちでんな」
「ほんまにハジメでよかったんか? 庇護者のひとりとしてつきあうだけでもいいんやで。あいつ案外嫉妬深いし面倒くさいとこあるやろ?」
「まあね。でも。それでも……ハジメは僕のナンバーワンなんだ」
「こりゃまいったな。一本取られたわ」
「あ~! こらっ。朝比奈、お前またすぐるにちょっかいだしとるな!」
遠くからハジメが駆けてくる姿が見える。
「なんや。そんなに嫉妬深いと嫌われるぞ~」
夕暮れの校舎に笑い声が響く。人生において平坦な道などはないだろう。この先喧嘩をすることもあるだろうし悩むこともあるだろう。
それでも一歩ずつ僕らは前を向いて進むのだ。二人で支えあって生きていきたい。僕らの未来は無限大だから。
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一章は完結です。次からは朝比奈のおはなし。
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