13 / 34
第2章 第2話 高塚亜紀良
「さてさて。今日から僕のところに来てもらうけど、じゅん君は自分がオメガってことは理解してるんかな?」
「なんとなくは……」
「はは。まだ完全にはわかってないようやね。ちなみに僕も兄さんと同じようにアルファなんや。だからじゅん君が苦しんでるときに助けてあげられると思うよ」
「助けるとは?」
「この間のは無理やりやったんか?」
「…………」
「ごめん。デリカシーのない聞き方やったかな。じゃあ聞き方を変えよう。発情期はまだなんかな?」
「まだやと思います。その、発情期ってどんな感じなのかわかりません」
「そうなんか! くっそぉ。あの悪ガキらめ! 無垢な身体をいたぶったわけや! 僕もハジメ君みたいに暴れたかったわ。もっとボコボコにして二度と表で出られへんように沈めてしまえばよかった。あいつらの×××を〇〇〇してまおうか」
それまで紳士的やった亜紀良が急に口汚くののしり始めたのをみて俺はあとずさった。
「おっとごめんな。怖がらせたかな」
「いえ、あの。ハジメには感謝してます。あのままやったら俺やっぱり壊れてたかも」
「あかんあかん。そんなこと気安く言うもんやない。だいたいそれぐらいで壊れたりせえへんよ。人間ってさ案外頑丈なんやで。心も身体も」
「でも……」
「じゅん君、兄さんに気ぃ使ってるんと違うか? 父親は子供を養育する義務があるんや。僕はな、アルファって事にしか頭にない高塚の考え方には辟易してるんや。あほとちゃうか! ってね。オメガもベータも同じ人間やってわかっとらんのや」
亜紀良 の言い方がハジメとそっくりで俺は思わず笑ってしまった。
「お? ええ顔するやん。もっと笑ったらいい。それに嫌なことされたら嫌やって言わなあかん。黙ってたらどんどんエスカレートしてまうで。相手に隙を見せる前にアッパーパンチを繰り出すんや!」
亜紀良 は片手を大きく前にだしてパンチをするふりをした。
「じゅん君はこれからもっと綺麗になる。その時になめられんように僕が考え方から直してあげよう」
「お願いします。俺も自分自身で立ち向かえるようになりたい!」
「よっしや! 良い顔つきになってきたな」
「まずアルファとオメガは身体の作りが違う。力もアルファの方が強い。じゃあどうしたらええと思う?」
「身体を鍛えるとか?」
「ははは。まあそれもありやけど、オメガは鍛えてもあまり筋肉が出来る体質ではないんや。何も自分が鍛えんでもええ。バックに権力のあるもんに守ってもらえばいいんやないか?」
「はあ? バック? って後ろ盾ってことですか?」
「そうや。今度のアルファの総会に連れて行ってやるさかい。何かプレゼンできるようにしとき」
「プレゼン?」
「プレゼンテーションや。自分をいかに相手に売り込むことが出来るかが勝負や! 僕はじゅん君の顔と声はすごい気に入ってんねん。だからもっと自分自身を表に出していくんや」
「俺の顔と声って……」
「じゅん君は綺麗や。仕草も無駄がない。後はその長所を今よりももっと磨いて魅力的にするんや。僕に任せろ!」
「いやいや、亜紀良さん目が悪いんやないか? 俺なんて……」
「ほれ! それや。自分を卑下したらあかん。そういう時は胸を張ってありがとうって微笑むんやで。やってみせてみ!」
「え? あ、ありがとう」
「あかんまだ笑顔が硬いわ。今日は笑顔の特訓やな」
はははと亜紀良は笑った。
このちょっと変わった感性の叔父が俺は昔から嫌いになれなかった。口を開けば批判ぎみに、言い方や言葉の調子がきついのだが、その内容は間違ってはいないことが多い。正統派な言い分であるとも思える。逆にスパッと言ってもらえる方が分かりやすく胸に響く。(傷つくこともあるのだが)
「基本、アルファはなんでも出来てしまうから出来ないもんの気持ちがわからんところがある。だから僕はときどき君に無茶なことも言うかも知らん。そういう時はきちんと反論してくれ。僕の欠点は言葉で言われないと理解できないところや。他人の感情になかなか同意できないねん」
「それはわかります。亜紀良さん、よく人を怒らそうとしますよね?」
「ふはは。それそれ。そういう風に言い返してくれ。ホンマのこと言われて怒る奴が多いだけやで。僕は嘘はついてないよ」
「俺はいつか亜紀良さんが刺されるんやないかと心配です」
「うんうん。いいねその軽口。……もし、僕が刺されたらじゅん君は悲しんでくれる?」
亜紀良の手が俺の頬を撫でる。距離が近づいたせいかふぁっと亜紀良の香水の匂いがした。これは確かシャネルのエゴイスト。強い個性的な香りだ。亜紀良にぴったりだと思う。
亜紀良の指が俺のあごを持ち上げた。俺よりも亜紀良のほうが少し背が高い。ゆるくウェーブかかった髪が片目にかかっている。
「ほんまに綺麗やな。なぁちょっとだけ、消毒してもええか?」
「消毒?」
「ああ。じゅん君の中から悪ガキらを追い出したいんや」
「なに……ぁ」
俺の言葉を待たずに亜紀良が俺の唇を奪った。胸が高鳴り、ずくんっと腰が疼く。口調に反して優しい口づけだった。離れたくなくて自分からその首に腕を回すと、それをきっかけに荒々しくなる。何度も角度を変えて吸われ甘噛みされ舌を絡められると気持ち良すぎて腰が砕けた。
「おっと……すまん。やりすぎてしもた」
息を弾ませた俺を抱えるようにしてソファーに座らせると頭を撫でられる。甘えるように頬を寄せると。息を詰めた音が聞こえた。
「……じゅん君、今日は……ここまでにしとこか。僕の自尊心が危ういわ。僕も欲しかったもんが手に入って浮かれすぎたみたいや」
「……?」
ともだちにシェアしよう!