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第2章 第7話 会いたくて巣作りを

  引き取られた日に亜紀良にキスをされ腰砕けになったことを言っているのだろうか。  確かに気持ちよかった。なのにそれが(つがい)だったからだなんて言われてもわからない。だいたい亜紀良に言われる言葉が信じられない。裏があるんじゃないかと疑ってしまう。 「そ、そんなん覚えてへんわ! 俺のことなんか本当はどうでもいいんやろ!」 「そんなことない。僕にはじゅん君だけや」  亜紀良がニコニコと嬉しそうだ。 「なんやねん、俺の話しまともに聞いてるんか? なんで笑っんねん!」 「だってじゅん君が本音で喋ってるから。いつも僕の前ではいい子のフリしてたやろ?」 「俺はもう子供やない! いい子とか言うな!」 「うんうん。ごめん。もう言わへん。ごめんな」  本気なのかどうかも疑っていたら亜紀良が手を広げてきた。 「何やってんねん」 「飛び込んでおいで」 「アホ。そんなん恥ずかしいわ」 「そう?僕は嬉しいよ」  嬉しそうにそう言うと亜紀良の腕が俺を抱き寄せた。 「アホ! 亜紀良さんのバカ! おたんこなす!」  ジタバタと暴れてみるががっしりと抱き込まれて身動きもとれない。こんなにも体格差があったのか? 「はははは。拗ねたじゅん君も可愛いっ!」  くそっ。腹が立つのに抱きしめられて嬉しいなんて。俺ってチョロすぎるやろ。 「可愛いないわ! もう……、どこにも行かんとってや。俺のそばにいて! 庇護者もいらん。亜紀良さんがいてくれたらそれでいいんや!」  最後は泣き声になってしもた。ああ、言うてしもた。 「……じゅん君。ああ。やっと言うてくれたな。そんなに僕の事が好きなんやな」 「なんやのそれ! 腹立つ!」 「くくく。僕が何を言っても腹が立つんやな?」 「そうや、アホ。亜紀良さんなんか……んん」  亜紀良が噛み付くようなキスをしてきた。 「もう、その悪口を言う口を塞いじゃおうね」 「んん。ぁ……」  あかん。キスされただけやのに。腰が砕ける。もっと深く口づけ多くて欲しくて自分から舌を絡めた。 「はっ。じゅん君可愛すぎや。僕をこれ以上骨抜きにするつもりか?」 「亜紀良さんの言葉は信じられへん。そんなん言うててもすぐまたどっか行ってしまうやんか。俺より仕事のほうが好きなんわかってる」 「……わかった。僕も本気を見せる。僕はホンマに君が好きや。だからちょっと待っててな」 ◇◆◇ 「ちょっと待っててってもう3か月やん! また俺を置いてどっかに行ってしまうし! もう信じられへん。今度こそここを出て行く」  俺がわがままを言ってるのはわかってる。亜紀良は遊びやなく仕事で海外に飛び回ってるのも理解してたつもりや。だがもう気持ちが追い付かなくなってしまった。 「なんで俺を好きやなんて言うたんや。もう諦めきられへんやん」  亜紀良の事を想うだけで胸が苦しい。おかしい。発情期はまだ先のはずやのに。会いたくて仕方がない。 「どうしよう。亜紀良さんを好きやって自覚したら歯止めが利かなくなったみたい」  もし亜紀良が帰るまでに俺が消えていなくなったら探しに来てくれるだろうか? ここを出てどこに行こう。ハジメのところ? でもそれはすぐるくんに悪い気がする。庵野さんに相談してみようか? それも庇護者を頼る事になる。出て行くなら自分の力で出て行かないとダメな気がする。  考えがまとまらないままにふらふらと亜紀良の私室に入ってみる。 「亜紀良さんの匂いがする」  そういえばハジメがすぐる君が巣作りしたって言うてたけど。俺はまだそんな経験はないな。確か好きなアルファの衣服を集めるんやったけ? 「亜紀良さんのシャツ……」  手に取って抱きしめるとふんわりと亜紀良の匂いがする。 「ぁ、なんか安心する。亜紀良さんの匂い好きや」  そうか。俺不安なんやな。じゃあもっと安心できるようにしないと。もっとたくさん。亜紀良さんの匂いがないと寂しい。もっと……。 「じゅん君? どこや? え? これじゅん君がつくったんか?」  いつの間にか亜紀良が帰ってきてたみたいや。ああ見て欲しい。頑張ったんやで。ココで待ってたんや……俺は布の間から顔をのぞかせた。 「そんな可愛い顔して僕を誘ってくれるん? 最高やな!」 「え? あれ? 俺なんで?」  俺の周りには亜紀良の服がこんもりと盛り上がっていた。俺がつくったんか? 亜紀良の匂いに包まれたくてシャツを抱きしめたのまでは覚えてるが。その後の記憶があいまいだ。 「これが巣作りやな! 嬉しいで! ほんまに嬉しい! オメガが好きなアルファの事を想ってつくるやつやろ? 本能的に作ってしまう程好きやってことやん! ああ。ありがとう! 僕は幸せもんや!」  亜紀良が興奮して服の中をかきわけて俺の元にたどり着くと押し倒された。荒々しく口づけされると甘い匂いが濃厚になる。  え? 俺どうしたんやろ? 発情期はまだ先なはずなのに。 「はぁ。じゅん君、覚悟してくれ。もう逃がしてやれそうもない」 「ぁ……亜紀良さん。会いたかったんや。俺会いたくて」 「うんうん。わかった。もう離さへん。庇護者も断ってきた。君を抱きしめるのも口づけるのも僕だけや。他の奴にはもう触れさせへん」 「ほんまに? 俺を慰めてるだけやないの?」 「ホンマや。ごめんな。そんなに疑り深くなったんは僕のせいやな」 「そうや。だから責任取って」 「とる! 全部とる。じゅん君はもう僕のもんや。そのかわり僕はしつこいんやで。執念深いし、そやから逃げれるようにしてたのに……。もう観念してくれ。」

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