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第3章 第11話 家族になる
それから二年後。僕らは近親者だけで挙式をあげることにした。
本当は卒業後に挙式をと考えていたがハジメが生地の開発のために留学をすることが決まったのだ。僕はもちろんついて行くつもりだ。そのために単位は頑張って卒論以外はすべて取り終えた。そこにハジメ父から衣装が出来たと知らせが届いたのだ。
そこから高塚がすぐに挙式をあげようと声をかけてきた。よっぽど結婚衣装を心待ちにしていたらしい。教会もすぐに抑えてくれた。
向こうの拠点は高塚が使用している海外のマンションと近いらしいのでちょくちょく朝比奈もやってきてくれるという。一緒に外国語を習うつもりだ。
「あはは。ハジメ! 馬子にも衣装やな! めっちゃカッコいいやん」
ハジメは艶のある質感のグレーのタキシードに藍染のベストを身につけている。このタキシードの生地はハジメが開発した布で発色もよく近未来的なイメージがあるんだそうだ。ハジメ自身は虫じゃなかったらなんでも良いとハジメ父に言って怒られたそうだけど。
「朝比奈もきょうはキメてるやんかって俺ら互いを褒めあうってどんだけ痛いやつらなんや?」
「あははは、違いないわ」
朝比奈は白いタキシードに薔薇の透かし彫りがはいった仕様だ。腰の辺りがきゅっと絞ってあってスタイルの良さが際立つ。中は白のレザーのコルセットで高塚がデザインを決める時にいろいろと注文を付けた品らしい。この透かし彫りの生地もハジメの手が入った生地だ。
「朝比奈さんありがとうございます。僕らの挙式も合同にしてくれて」
「あ~、いいよ。俺がそのほうが気が楽なんや。やっぱり挙式ってなんかまだ照れ臭くって」
「何言ってんねん。お前もうお嫁さんなんやろ?」
「わ~。それを言うな。嫁とか男に向かって言うの変やろ? 既婚者って言ってくれ」
何事もすぐに行動に起こす高塚は朝比奈に結婚の申し出をした次の日にこっそりと婚姻届けを出しに行ったらしい。後でわかってかなり朝比奈ともめたらしいが……。
「アルファってすぐに動くんやな。ちゃんと考えて行動してるんかな?」
朝比奈が愚痴る。
「頭の回転が速いのがアルファなんやよ。狙った獲物は逃しはしない」
高塚が隣で返事をした。今日の高塚は黒のタキシードだがもちろん普通の黒やなく、光の加減でホログラム状に蔦と鳳凰が浮かびあがる仕様だ。
「僕は最初はハジメ君がじゅん君に気があるのかと敵対してたんや」
高塚がハジメを横目で見る。
「そうやったんや! それで小さい頃から俺をずっと睨んでたんやな?」
「悪かった。君は純粋にじゅん君を友人として守ろうとしてくれていたんやな。ありがとう。今更ながら礼を言いたい」
ハジメが背を正した。まっすぐに高塚を見つめる。
「いえ。こちらこそ。朝比奈は俺の親友です。小さい頃から兄弟のように育ちました。朝比奈をあの家から離してくれて感謝してます。出会った頃からあいつは俺にじゅんって名前でなく朝比奈と呼べと。自分が高塚じゃないんだという気持ちでそう言うたんやと思います」
「だが、僕と結婚することで、今度こそ高塚の姓になってしまった」
「でも、今は高塚と名乗れて幸せやと思います。あいつの呪縛を放ってくれたんは高塚さんやから」
「すぐる。綺麗やな」
朝比奈がほほ笑む。いつもながら女神みたいだ。僕は袖が総レースの腰の辺りで切替えがある真っ白なジャケットを着ている。この腰の切替えがたっぷりと後ろに長くてウエディングドレスのような形状をしているのにとても軽い。この軽い生地もハジメの開発したものだ。中にはいているパンツはスリムでくるぶしにスリットがはいっている。ユニセックス的で男女どちらでも着れる式服なんだそうだ。
「……草壁さんが端っこで泣いてはったよ」
「そっか。来てくれてたんだね。朝比奈さんも……えっと」
「じゅんでええよ。これからはじゅんって呼んでや」
「うん。じゅんも今日はものすごく綺麗だよ!」
パイプオルガンの音と共に神父が現れ誓いの言葉を互いに交わした。
簡単な挙式だったが記念写真もとり、僕とじゅんは感動して涙でぼろぼろになった。
この後は予約してるホテルでディナーをたべてそこで泊まる予定だ。
「高塚さん。今日はありがとうございました。こうして挙式が出来ただけで幸せです」
「いや、いいよ。すぐる君はじゅんと共同で今バーチャルの店舗を数店押し進めてくれてると聞いてるよ。出来ればこれからも力になって欲しい」
「本当ですか?」
「ああ、じゅんも気心の知れた子が近くにいると相談しやすいと思うしな」
「ありがとうございます!僕頑張ります!」
「亜紀良さんありがとう」
「いやこれは僕のためや。じゅんの喜ぶ顔が僕の活力になるねん」
それにすぐるくんなら僕も安心するからねと小声で高塚がつぶやいたのが聞こえた。
「じゃあ今後の皆の未来のために乾杯!」
「「「乾杯!」」」
僕らは祝杯をあげた。先の事などわからないが立ち止まってばかりじゃ何もつかめない。可能性を求めて明日へと歩き出そう。
おわり
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