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番外編 義母と義姉
「うわあ国際線っていろんな国の飛行機が止まってるんだなあ」
「なんやすぐるは海外に言ったことないんか?」
「うん。ないよ。国内線しかないんだ。いつもは新幹線だったから」
「そうか。……ってパスポートは?」
「持ってないかな……」
「ええ? 早く作っとかなあかんで」
「うん。留学までには作っとくよ」
「あかん。明日申請しに行こう。2~3週間はかかるんやで。写真も撮らなあかんし」
「そっか。僕、大学の単位を取る事でいっぱいいっぱいでそこまで頭が回ってなかったよ」
ハジメの生地制作は軌道に乗りつつある。僕は最初は藍染ぐらいしか知らなかったのだが、生地って染めるだけじゃないんだ。ハジメは糸から作り出すことが出来る。それこそさまざまな素材を繊維のようにする技術を開発して新しい布を作り出すのだ。いろんな分野の技術開発の方々もハジメの元にやってくるようになった。そのうち海外で新素材の研究をしないかという話が出だした。つまり留学だ。
最初は戸惑った。遠くに行ってしまうのを見送るのは悲しいし、待ち続けるのも寂しい。そう思ってるとハジメ父から「一緒に行っちゃえば?」と軽い口調で言われた。
「コレクションの発表に各国に行くから僕とも会えるよ。草壁は語学も堪能やし教えてもらったらどうや? マンションもいくつか保有してあるよ」
「え? 本当ですか?」
その言葉になんだか悩んでるのが馬鹿らしくなった。
「うん。単位さえ取っちゃえば別に毎日大学に行かなくてもいいんやないの? 今どきオンラインで授業や試験もうけれるんやし」
そこから必死で単位を取りまくった。どうせ大学にいるときはハジメは研究づめだったし。その代わり毎晩同じベットで寝て、週末は一緒に過ごすことにした。ハジメは週末はごろにゃん状態だ。平日あまり関わる事がない代わりに週末はべったりになった。
最初こそ慣れなくて時間がかかっていたことも朝比奈に手の抜き方や、草壁の助言で時短の仕方を覚えていった。草壁は人の何倍も勉強してまとめるの上手かった。アルファに負けない様に先手先手で動いていく。まさに努力の人だった。そのうちに僕にも時間が出来て朝比奈の仕事も手伝えるようになってきたのだ。
「そっか。すぐるの努力家のとこ、草壁さんに似たのかな」
朝比奈に言われてちょっとくすぐったい気持ちになる。まだあの人が父親って実感はないけど肉親が生きているってわかっただけでもよかった。
そんなバタバタした毎日にメールが届いた。
「大変や! 怪獣と魔女がやってくるぞ」
「……なんかわかんないけど凄いね」
それがハジメの母親と姉のことだと知った。やっと時間が空いたから僕に会いに来るというのだ。姉のほうは旦那と赤ん坊連れだ。
「どうしよう凄い緊張してきた」
「俺は今から胃が痛いわ」
国際線の到着口から人が現れ始めた。
「この飛行機かな?」
「ハーイ! 元気にしてたぁ? ちょっとなんでそんな顔してんのよ!」
目の前に色鮮やかな衣装を着たスタイルの良い美魔女が現れた。とっても騒がしい。
「普通や。これが俺の普段の顔や」
いや、明らかにむくれてるけど? むすっとした顔になってるよ。
「はじめまして。すぐると言いま……」
「あっら~、可愛いじゃない! ちょっと何よ。あんたこんな可愛い子捕まえるなんて!」
後ろからカートを押して現れたこれまた美女とイケメン外国人。そのイケメンの抱っこひもには赤ちゃんがいた。
いきなり美女に抱きつかれ、耳元できゃーきゃーと叫ばれ耳がキーンとする。
「ちょっと何よ私より先に抱きつかないでよ!」
これまた美魔女が僕に抱きつく。
「こらこら! やめんかい。すぐるは俺のや!」
「何言ってんのよ。こんな可愛い子! やった。私可愛い弟が欲しかったのよね!」
「うんうん。ペアルックで歩きたいわ~」
「あ~それいいわね。パパに頼んじゃいなさいよ」
「いやよ。パパとは趣味が合わないんだもの」
まったくもってかしましい。出会いがしらこれまで僕は自己紹介すらさせてもらえない。
「お前らじゃかあしいんじゃ! 黙っとけ!」
ハジメがきれた。だが女性二人も負けてなかった。
「何を生意気な! 姉ちゃんに逆らえると思ってるんか!」
「あんた5歳までおねしょしてたことバラすよ!」
「そうや小学校の遠足のときおもらししたこともよ!」
「わ~!わ~!もう言うてるやんか!バラしてるやろ!やめてくれ~」
「ぷっくくくく。楽しいお母さんとお姉さんだね」
「うっわあ。何その反応。めっちゃええわ」
「ホンマや。おっとりしてて天使みたいやん」
「ええわ~。早くうちの子になって」
「そうやもう一度お姉さんって呼んでみて」
「何言うてんのお母さんって呼んで」
すっと突然イケメンが僕の傍に来た。
「ハジメマシテ。すぐるサンですね?僕はジャックです。ヨロシクオネガイシマス」
「はい。すぐるです。よろしくお願いします」
「こほん。こっちが母の翠 でこっちが姉の怜華 や」
「はじめまして翠 お母さん。怜華 姉さん」
「うんうん。よろしく頼むわ。なんか欲しいもんないか?」
「うんうん。お腹減ってないか?なんか食べよか?」
完全に子供扱いの気がする。でもまあ良いか。
「はい。喉が渇いたので何か飲みに行きませんか?」
そこから僕は怒涛の質問攻めにあったのであった。
「どこで知り合ったん?」
「告白はどっちから?」
「いつ結婚式するん?」
「まだ学生なん?何学んでるの?」
「好きな食べ物は?」
でも皆とても好意的で親切にしてもらえた。
「……ここだけの話し。私らハジメはじゅん君と一緒になるんかなと思ってた時もあるんよ」
「でもなあ、向こうには亜紀良さんがおるからなあ」
「そうそう。絶対無理、嫌って思っててん。だからすぐる君が来てくれて嬉しい」
「もちろんじゅん君が嫌いなわけはないんや。あの子も可哀そうな子で。家族やと思ってる」
「うん。すぐる君もじゅん君と仲が良くってよかったわ」
「あっとそろそろ行かな」
「え?どこかに行かれるんですか?」
「せっかく帰国したからな。ちょっと縦断旅行しようと思って」
「そうそう。今から北海道に行くねん。国内線はこっちやね?」
「は……はい。向こうです」
「ほなね。また会おうね。元気でね」
「またね。ハジメ、じゅん君泣かしたらあかんで!」
「そや! 仲良くしいや!」
「はあ……ごめんな。すごいやろ?うちの女どもは」
「まあ。でも洗礼を受けた気がするよ」
「あはは。そやな。家族やからな」
「うん。皆僕を受け入れてくれて嬉しい。ありがとう」
「こちらこそ。うるさいし大変やけど涙もろい人たちやねん。よろしく頼むわ」
「はい。まかしといて!」
「ははは」
これから賑やかになりそうだ。
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