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出会い3
ピザを食べ終わった後リビングに来客用の布団を敷き、俺はシャワーを浴びた。
短い時間だけど律くんは最初の頃よりしっかりとした声を出しているし、纏う空気も柔らかくなった。怪しい人間ではないと信頼して貰えたのだろうか。そうだと嬉しい。
そして俺はそんな律くんが気になる。それは単なる初対面の相手だからなのか、それともそれ以上のものなのか自分でもわからない。わからないけど、律くんの笑顔には見惚れてしまった。
律くんは色の白いノーブルな顔立ちをしている。綺麗、という言葉がピッタリだ。男としたら嬉しくない形容詞なのかもしれないけれど、綺麗という言葉しか出てこないのだ。
そんな律くんだから気になるのか。それは気になるが、あまり気にしてはいけないような気がした。だって今日出会ったばかりで、怪我が心配で湿布を貼るという名目で誘ったのだ。決して下心はなかった。
確かに元彼と別れて2ヶ月になるけれど、そんなに急いで次の彼氏を作ろうとも思っていない。こればかりは縁だから、縁があれば出会うだろうしそういう関係にもなるだろう。だから流れに任せているといったところだ。
もちろんゲイだから出会うとすれば、ゲイバーか出会い系になるけれど、まだ積極的に出会おうとはしていない。
正直言ってしまうと、元彼のわがままに疲れてしまって今は1人ゆっくりとしたいといったところだ。
だから今は律くんに対して気になるというのがどういう意味かだなんて考えなくていい。
シャワーを浴びてリビングに行くと、布団の上に座っている律くんがいた。
「先に寝ていて良かったのに。電気が嫌だった?」
「いえ。電気は大丈夫です。」
「そう?今日は疲れたでしょう。ゆっくり寝るといいよ」
「はい」
「じゃあ電気消すよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言ってリビングの電気を消すと、律くんが布団に入るのが見えた。俺も早く寝よう。明日は律くんが朝には帰るのかどうなのかわからないから、1日の予定がいつも通りになるのかはわからなない。
もし帰るようならいつも通りの週末のパターンで。もし昼過ぎまでいるようであればそのとき考えよう。
そう考えて俺もベッドに入った。
翌朝、目が覚めてリビングへ行くと律くんは既に起きていて布団を畳んでいた。
「寝れた?」
「あ、はい。おかげさまで寝れました。あの......」
「ん? 連絡あった?」
「はい。ちょっと前に」
「そっか。じゃあ朝食は食べないで帰る?」
「はい」
そうやって返事をする律くんは申し訳なさそうな顔をしていた。
「気にしないでいいよ。朝になると連絡あるって聞いてたしね。それよりもう帰った方がいいんじゃない? また暴力振るわれたら大変だよ」
「あ、はい。あの、昨夜は本当にご迷惑をおかけしました。ピザと湿布代持って来ますから」
「そんなの気にしないでいいよ。こっちこそ、1人で食べられないからって勝手にピザに付き合わせちゃったから」
「そんな。俺も久しぶりに食べてすっごく美味しかったし」
「うん。その言葉だけで十分だよ。それよりさ。もしまた暴力振るわれたらネカフェとかじゃなくてうちにおいで。湿布くらいは貼ってあげられるから」
「そんなに迷惑をかけるわけには......」
「迷惑なんかじゃないよ。俺が心配なだけだから」
「......じゃあ、そのときは。でも! 疲れてたりしたら追い払っていいですから」
「追い払ったりしないよ。だから安心して」
「ありがとうございます」
律くんはとっても真面目な子なんだということが、この短いやり取りでもよくわかる。
「あの、じゃあ俺帰ります」
「うん。またね。って暴力はない方がいいんだけどね」
そう言うと律くんは困ったように小さく笑い帰っていった。
ドアがパタンを完全に閉まるまで俺は玄関をじっと見ていた。
律くんがもう暴力を振るわれるようなことがなければいいと思う。でも、そうすると律くんには会えなくなるんじゃないかと思うと寂しい。また律くんに会いたいと思っている俺がいた。
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