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終章 光の勇者と神緑の魔術師 第六話 勇者の喜び*
本当は衝動のままに貫きたかった。
それくらいニコの中はハロルドに大きな快楽を齎したし、全身を真っ赤に染めて懸命にハロルドを受け入れようとするニコの姿はハロルドの中の独占欲や執着心といった醜い感情をひどく刺激した。
しかし、なけなしの理性を必死で握りしめてハロルドはじれったいくらい緩やかな動きでニコの中を進んだ。
「ニコ、大丈夫?」
「ん、だいじょぶ」
ハロルドの問いにニコがぐう、と唸りながら答えた。
痛くはない、というニコは汗みずくになって、へらりと微笑んだ。
その力の抜けた笑顔に、ハロルドは天を仰ぎたくなる。この状況で、その顔は本当に駄目だ。
可愛い。大好き。愛してる。
ぽんぽんと頭に浮かんでくる感情をそのまま言葉にする。
これまでだってハロルドは言葉を惜しんだことはないが、それでも足りないくらいニコを愛していた。
溢れる気持ちをそのまま伝えれば、眉を下げたニコが眦を染めて鼻を啜る。
「えッ、ニコ、どうしたの!?」
「いや、あのさ、俺、生きててよかったなって思って」
幸せだ、と言われてハロルドはとうとう我慢できなくなった。
けれどニコの負担を考えればそのまま挿入を深くすることは出来ない。
その代わり、上体を倒してその薄い唇に食らいついた。小さなニコの小作りの唇は、ハロルドのそれですっぽりと覆えてしまえるくらい慎ましい。
中を丹念に舐めて、舌を吸う。呼吸すら飲み込んでしまうような、激しい口づけにニコが戸惑うようにハロルドの肩を叩いた。
「も、くるし……ッ」
息が出来ない、と言われてハロルドは素直に謝った。
しかし、ニコだって悪いと思う。もうずっとハロルドはニコに煽られっぱなしなのだ。
「もう、全部入った?」
潤んだ瞳でニコが問う。それにハロルドは少し気まずい気持ちで正直に答えた。
「まだ、半分くらい……」
「まじかぁ」
でも、今日はここまでしか入らないと思う。
そう伝えればそっか、とニコは息を吐いた。
「動いていい?」
「ん、いいよ」
ニコの許しを得て、ハロルドはゆるゆると腰を動かした。
出来るだけ優しく、ニコの表情を見ながら丁寧に。それだけを心に決めて、ハロルドはニコの手を握る。
ニコの中で自らを扱くのは眩暈がするほど気持ちがよかった。
まだ半分しか入っていないというのに、腰全体が蕩けそうに心地いい。
何度も妄想し、何度も夢見たニコの中だ。
ニコとひとつになっているという事実だけでも十分気持ちがいいのに、実際の彼の中は想像の何倍も熱くて柔らかくて歯を食いしばって耐えていなければ、あっと言う間に持っていかれそうだった。
ハロルドが動くたびにニコが小さな声を上げる。
甘く蕩けるようなそれは、たぶんニコが感じているのが苦痛だけではないから。
散々解して溶かした後孔はハロルドだけではなく、ニコにも快楽を与えているようだった。
細い足を抱えて、中を確かめるように穿った。
あまり深くは挿入できないから、腹側にある前立腺を削るように粘膜を擦り上げる。
「あ、あッ、はぁ、ああ」
ニコががくがくと身体を震わせる。立ち上がった陰茎はとろとろと透明な雫を零しているけれど、たぶんまだ後ろだけでは絶頂を迎えることは出来ないだろう。
きっとこのままでは苦しい。
ハロルドはそう思って、ニコの陰茎に触れた。
「ぁあ――……ッ!」
先端のぬめりを亀頭全体に広げるようにしてその滑りを借りて手を動かせば、ニコが上り詰めるのはあっという間だった。
勢いよく零れた精液と、ひときわ甲高い嬌声。
同時に雄膣全体が震えるように大きくうねって、ハロルドはその刺激に耐えられなかった。
何せ、ハロルドはこういう行為はニコとするのが全て初めてなのだ。
つまり、誰かに自らを挿入すること自体が初めてで、まるっきり素人だった。
何とか理性で湧き上がる衝動を堪えてきたけれど、与えられる快楽には勝てずそのまま自らの欲望を吐き出した。
腸壁の奥に擦り付けるように何度か先端を擦り付けて、深く息を吐く。
射精の後の気だるい快楽がハロルドの身体をどっぷりと侵していた。
汗だくの前髪をかき上げて、ハロルドは同じようにはぁはぁと息を整えようと必死なニコの額に口づける。
そして、気づいた。
「あ」
「なに?」
「中で出しちゃった……」
腰を引くと、ニコの中からまだ少し芯のあるハロルドのものが抜ける。
それと一緒にどろりと溢れてきたのはハロルドが中で出した自らの白濁だ。
ちょっと自分でも引くくらいたくさん出てきた。
こういう行為をするときに、最初ニコと約束したことがある。
それは絶対に中では出さないということだ。なにやら、精液が直腸内に残ると腹を壊すらしい。
後処理も大変だから、外に出せ、と言われていたというのに。
「ごごごごめん!」
あまりに気持ちがよくて、うっかり中で出してしまった。
おまけに雄の本能に負けて奥に擦り付けるような動きまでした。それに気づいて、ハロルドはさっと顔を青褪めさせる。
ニコが怒ったらどうしよう。
中に出すのはニコの負担が大きいと聞いていたのに、中に出してしまった。
嫌われたらどうしよう。
あわあわと慌てて、ハロルドはニコを見た。
「ふっ」
「え」
「あはははッ」
しかし、ニコは怒っていなかった。
それどころか弾けたように笑い出して、ハロルドは瞬いた。
けらけらと笑うニコは裸のままで腹を抱えて横に寝転がった。
「ニコ?」
「いや、ごめん。ああ、うん、ははっ、中に出しちゃったか」
あー、ほんとだ、と上体を起こしてニコが足を広げる。露わになった蕾から、とろとろと流れ出す白濁をハロルドは食い入るように見つめた。
「後で掻き出してくれればいいよ。それよりさ」
「え?」
「それどうすんの?」
そう言って指を指されたのは、ハロルドの股間だ。
丸出しのそこは先ほど出したばかりだというのに、もう兆していた。
「もう一回する?」
「い、いや、でもニコ。身体辛いでしょ?」
「意外といけそう」
だって気絶してないだろ、と言われてハロルドは確かに、と思った。
これまでの抜き合いではニコは達するとすぐに眠ってしまっていたのだ。こうして会話したり笑い合ったりする余裕すらなかった。
「あと一回くらいなら大丈夫」
「ええ……」
ほんとに? と戸惑うハロルドにニコは笑う。
「ほら、今度はぎゅってして抱いてくれよ」
長年焦がれ続けた相手に両手を広げてそんなことを言われて、断れる男がいたらお目にかかりたい、とハロルドは思った。
「ニコ……」
「ん?」
差し出されたニコの腕を取って、その細い身体に腕を回す。
ニコの胸と自分のそれをぺたりとくっつけると、言いようのない幸福感がハロルドの心を満たした。
ニコの乾いた肌は温かくて、微かに甘くいい匂いがする。
それは間違いなく「命」の温もりだ。
「愛してる」
好き、大好き。
ハロルドはニコを抱きしめながら、何度もその言葉を繰り返した。
背中にニコの腕が回って、同じように抱き返される。頬ずりされて愛おしむように口づけられる。
「俺もだよ」
この日、ハロルドは愛する人から同じ想いを同じ量で返してもらえる喜びを初めて知った。
これまでだってニコはハロルドのことを愛してくれていた。
それは間違いないけれど、これでようやくハロルドはニコの唯一無二になれたような気がした。
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