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第801話 事なかれ主義の多忙なる芸能生活2

野江くんが、ADの子に羽交い締めにされて、さっきの俺みたいに口を塞がられてる。 その姿を横目に、口が止まらなかった。 「そうそう、だからそこの早川と、脚本の東雲先生は同級生で、もっと言ったら、俺早川と付き合ってたんです」 司会のお笑い芸人が、面白おかしくしようと、大爆笑しながら、そんなことありますー?と観覧客に問いかける。他の出演者で唯一笑っていないのが、早川だ。道連れにして悪かったな。責任はとる。つもりだ。 「本当やったら、明日のワイドショー、えらいことになりますで」 「本当ですよ。付き合ってました。まあ、10年前に、プロポーズしたら振られましたけど」 俺の代わりに早川が答える。 ん???? 「ええええ!?プロポーズ!?ちょっとーーどういうことですかーーー!?」 声のでかい司会にうるせー黙ってろと言いかけたけど、俺が問いただしたい事だったので、ぐっと黙った。 「というわけで、俺らが、付き合っていたか付き合ってないか、プロポーズとはどういうことなのか、ドラマを観て確かめてください。放送は、1月2日、夜8時から」 「番宣かよ!!!」 早川は冷静にカンペを読み上げ、俺は冷静さを欠いて突っ込んだ。スタジオは大爆笑。笑ってんじゃねぇ。俺の必死のカミングアウトは有耶無耶にされたまま、番組収録は終わった。 元気よく挨拶してスタジオから捌けるや否や、血走った目の野江くんが早足で近付いてくる。こわ。やはり彼を巻くのは難しそうだ。 とっさに一歩前を歩く早川の腕を引っ張っる。 「早川」 10年前は冷静に話し合いができなくてごめん。 こんなに時間がかかってごめん。 本当は今でも俺は早川のことが好きだ。 海の見える家で一緒に暮らしたい。 だから結婚してほしい。 言っておくけど、番宣じゃないからな。 どれかひとつでも伝えられる間がもう無いので、はにかんでみせた。 彼も同じような顔をしていた。 「的居さん、帰りますよ」 「野江くん、今日は早川と帰るから」 「は?忘れたんですか?」 「忘れた。っていうか、何も無かっただろ?」 『何も無かった』のだ。 それを言うと、野江くんが三白眼むき出しで睨んできた。取り憑かれてる。何かに。絶対。 「まといちゃんもとんでもないサイコタヌキにつかれちゃったよね」 早川が、俺と野江くんのあいだに割り込む。携帯をいじりながら。 「野江(のえ)(とおる)。本名打ち込めば簡単に出てきたよー。俺たちの後輩ナンダネ」 「だからなんなんですか?」 「じゃあ知ってたんだ。まといちゃんのこと」 「知りませんでした。偶然です」 初耳だ。野江くんもあそこにいたなんて。2歳差だから、在学期間は被っている。 「嘘つけストーカー。じゃあこれなーに?」 携帯の画面には、白の電源タップを撮影した写真。 「何ですか?コンセント?」 「お前がしかけた盗聴器だよ。実物調べてもらったら、型番が古いやつらしいな。10年くらい前の」 「ソレが本物だとして。的居さんの家に無断で入ったんですか?」 「た、たぶん、俺がゲロった日、早川が家まで送ってくれたから、その時に、調べたんだろ?だから無断じゃなくて…」 咄嗟に、早川の後ろから二人の会話に口を挟んだ。別に擁護してるわけじゃない。うん。 「その時は変だなと思っただけ。写真撮って。確かめたのは、昨日。貰った合鍵使って、ネ」 あげた記憶ねーし。どうせ部屋から勝手にとっていったんだろう。……渡してない、よな?朦朧としていたので自信がない。 「鍵なんか渡してないですよね?やっぱ、コイツ、ストーカーだ、危ないから離れて、的居さん」 「寝室に隠しカメラもしかけられてた」 「え、嘘だろ」 思わず早川の腕を強く握る。盗聴器に隠しカメラ。信じ難い。ドラマみたい。現実に起こってる事か?これ。ドッキリなんじゃ。 「調べたら、こっちは最近のものらしいねー。スマホで遠隔操作できる奴でさ」 「そんな物、俺は仕掛けてないし、なんならケータイを調べてくれてもいいですよ?」 「俺が隠しカメラ見つける瞬間も配信されたはずだから、ここまでは想定内だろーね。配信先の登録もちゃっかり変えてデータ消してるだろうし、ケータイ調べても証拠は出てこないと思う。こうやって揺さぶってもボロ出さないし、ほんと手ごわいよ」 野江くんはあっけらかんとしていた。もしも、彼がストーカーなら、マネージャーより役者に転向した方がよっぽど才能に見合ってる。 「まといさんとヨリを戻したいからって、俺を当て馬にするのはやめてくださいよ!盗聴器もカメラも、自分で仕掛けておいて、自分で見つけて、ヒーロー気取りですか?俺が仕掛けたって証拠がない以上、貴方がやったことはストーカーのそれです」 早川はもう何も言えなくなって、小さくため息をついた。野江くんと対峙するのをやめると、俺と向き合う。 「実はね、アイツの言う通りなんだ。ヨリを戻したくて、もう一回、まといちゃんのナイトになりたくて、盗聴器もカメラも、俺が仕掛けたんだよ」 「…………そんな、わけ、ないよな?」 「ううん、俺が仕掛けた。俺が、まといちゃんをそう簡単に手放すはずないじゃん」 いいや、いとも簡単に手放した。俺も、同じだ。 それを、取り戻そうと今必死でいる。 「…う…嬉しい……10年も、ずっと俺のこと気にかけてくれてたんだ。嬉しい、俺、そんなに想われてるなんて、知らなかったから」 早川の胸に飛びつく。やってみるだけ無駄では無いと思ったから。メロドラマならここでラブソングが流れる。でも今()ってるのはサスペンスだ。 「はあ?なにそれ」 野江くんの気の抜けた声が響く。 「ということで、野江くん。これからは早川と暮らすよ」 「なんで」 「だって10年もずっと見守ってくれてたんだぞ。これからもずっと俺の事見てて欲しいじゃんか」 「ソイツじゃない」 「早川だよ」 「俺ですよ?的居さんのことを、ずっと、見守ってきたのは」 「野江くんなの?」 「俺です、俺がや」 自供しかけて途中で止めた。冷静になったのかもしれない。でも、ここまでで、もう充分だった。 「はめられた」 俯いた野江くんがボソッと呟いた。なんも言えねぇよ。早川とふたりで立ち尽くしていると、いきなり、野江くんが顔を上げて笑った。 「的居さん、いままでありがとうございました!めっちゃ楽しかったっす、ほんと、今日までは、最高でした」 まるで何も無かったかのように、別れの言葉を告げたら、野江くんは走って行った。 「こわい」 「こわかったねー」 早川に抱きつくと、早川も俺に抱きつく。 めちゃくちゃ怖かった。誰かに見られてもいい。もう一生早川から離れたくない。手が震える。 「大丈夫かな、俺」 「大丈夫大丈夫。しばらくは俺のとこで一緒に暮らして、そんで仕事が落ち着いたら、フランスに行こう」 「ふ、フランス?」 「イタリアがいい?それともイギリス?西の方で、海が見えるところに、行きたいんでしょ?」 「なんだ、それ……」 「でも今日はとりあえず」 「で、ふたり仲良く報告か?言っておくが日本じゃ法律上結婚は出来ないからな」 東雲センパイが、三人分の珈琲をお盆に乗せて運んできた。 「だからまといちゃん連れてフランスに行こうと思って」 「えっ」 まてまて、フランスってそういう意味だったのか? 東雲センパイがコーヒーをお盆の上に大量にこぼした。もったいない。 「早川くん、フランス国籍だったのか……?」 「冗談だったんだけど」 「あんまり動揺させんなよ、コーヒー大量に溢れちゃったじゃん」 「い、入れ直してくる」 「いいよ、まだ半分残ってるし。ありがとう、眼鏡」 全員で、コーヒーをひとくちだけ飲んだ。早川がソファーから立ち上がる。 「じゃ、探しますか」 「お、俺は、ムリかも」 「塩谷は何もしなくていい。ていうか、どうして塩谷をここに連れて来たんだ。ここも盗聴されてるって言うなら、こんなとこに連れてくるべきじゃ無かったのに」 「まといちゃんが、俺と片時も離れたく無いって言うから、ね、まといちゃん」 刷り込みなのかも知れない。ピンチの時に現れる早川に、とてつもない安心感を感じてしまうのは。 「すきあらば惚気ないでくれ…!一応、俺は失恋したばかりで傷心中なんだぞ」 「お前はいつも失恋眼鏡だな」 「君が言うな」 少しだけ三人で笑って、二人は盗聴器を探し始めた。 見つかったのはひとつだけ。 他と同じように、解体して導線をハサミで切った。 それから、東雲センパイに車で、早川父の経営するホテル(昨夜とは違う場所にある)まで送って貰った。 ツインの小さな二人部屋。 明日も仕事。事務所から留守電で、違うマネージャーが着くと言うメッセージが入っていた。 シングルベッドに大の字になる。 「仕事する気分じゃねー」 「辞めちゃいなよ」 隣のベッドに座る早川がいつかと同じ様に言ってきた。 「そうだなー」 「10年前はあんなに怒ったのに、よっぽどこたえたみたいだねぇ」 「俺がげーのー界やめるように、仕込んだスパイじゃねーだろーな」 「だったらどうする?」 「そうであって欲しいよ、全部お前に仕込まれたことなら、納得できる」 ギシギシと音を立てて、俺の上に登る早川の頬に手を伸ばす。 「ネタばらしして良い?仕事やめて、俺が養うから、主夫になってさ、ずっと側にいて欲しいって、言ったの、覚えてる?」 「覚えてない」 即答した。本当に言ったのか?そんな、プロポーズみたいなこと。 「一世一代のプロポーズして、翌日出ていかれちゃったから、今度は絶対ノーとは言えないような環境を作ってやろうと思ってさ、柄にも無く頑張っちゃった」 「え、まさかマジで」 「違うよ。俺は南雲っちの協力を得てうまーく俺とまといちゃんが運命の再開を果たせる用に仕組んだだけ。アイツのことは知らなかった。盗聴器も、俺が仕掛けてやろうと思ったらすでに仕掛けられてたってので、たまたまわかったんだけど!」 「仕掛けようとするな!!いやでもそれで分かったんなら有り難かったのか…?いや、でも……くそ、腑に落ちない」 「終わりよければ全て良しでいいんじゃないの?」 「まだ終わってねーけどな」 野江くんの件は警察に届け出るか、それとも示談交渉にするか。そこらへんは眼鏡の専門分野なので心強いけど、週刊誌やワイドショーからは逃れられないだろう。 ドラマの撮影も終わってないし。いろんな契約もまだ残ってる。 それでも、全て無かったことには出来ないので、俺は地道に頑張るしかないのだ。 ああ、これから忙しくなるぞ。 「うん、俺たちがどろどろの仲直りセックスするまでは、終わらないんじゃないかなあ」 「それだとすぐ終わりそうだな」 「そう?10年ぶりだから2万9千100回だよ」 「どういう計算したんだよ、ソレ」 早川の顔が近づいてきたので、手を挟んで止める。キスする前に言っておかなければならない事がある。 「おっ俺たち、結婚を前提に、付き合わないか…?」 「はぁ〜〜〜まといちゃんあと100万回追加ね、もちろん、おっけー、ついでに俺と結婚してくれる?」 「うん」 10年ぶりに早川とキスしたら泣けてきた。それは向こうも同じだったみたいで、誓いのキスは塩っぽかった。 「すっごい久しぶりなのにさ、まといちゃん、感度良いのは、アナニ」 「してないっ、はあっ、はやかわ、もっと」 2回イっても、まだまだ終われそうになかった。だって10年ぶりだぞ。それにプロポーズまでされて、燃えない方がおかしいじゃないか。 後ろからいっぱい腰を打ち付けて貰いながら、自分のものを扱く。 「ぁ、また、いきそ、ね、イっていい?ああっ」 返事はきかずに3発目を自分の手の中に出した。途端、凄まじい眠気に襲われて、崩れ落ちる。 「ねみぃ」 「まといちゃん、起きて、こっち向いて」 「…うん」 ゆっくりと、仰向けになると、俺の上で早川がシコってた。そっか、さっき俺だけイッたから。眠気まなこでその様子をみる。 「かけていい?」 「えっ」 「う、ぁあ」 今度は早川が俺の返事を聞かずにイク。顔や身体に何かがかかる。 「白濁にまみれたアラサーのまといちゃん、めちゃくちゃエロい」 恍惚としている早川の下で、言葉にはならなかったけど思ったことがある。 事後のアラサー早川もじゅうぶんエロいよ、と。 ********** 「なにこれ?」 「だから!!!南雲先輩に書いて貰った俺とまといさんの同人誌!!!コピ本!!!ヒドイんですよ!なんで早川オチなんすかー!!!現実じゃ無理だから妄想の世界でひとつにしてもらおーとおもったのにーーー!」 夜中に叩き起こされて、何が何だか分からないものを読まされ、非難の声を浴びる。野江透(16歳)、俺の新しい同室者は今日もぶっとんでいた。 「なんで俺がサイコパスストーカー!?眼鏡のオリキャラとか要らないし!!まといさんゲロ吐きすぎだし」 「俺に言われても知らねーよ!つか、どうやって入ってきたんだ!?鍵かかってたろ!?」 「ふつうにノックしたら、その人が入れてくれましたよ」 「10年もまといちゃんと俺が離れるってあり得なくない?あとエロシーンは最低20ページ欲しいなー」 早川がベッドの上で例の印刷物をペラペラとめくりながら言った。 「入れるなよ!勝手に!」 「入れていーい?って聞いたら、早くって言ってたよ、まといちゃん」 「それはっ、そ、それは……」 セックスの時の話だろうが!と、野江くんの前では言えなかった。 「ちょっと!!!セックスの時の話はやめてください!」 「カワイソ〜〜野江クンには一生縁がないもんね、まといちゃんとのセックス」 「お前らこの部屋から出てけ!!」 早川から『同人誌』を取り上げて、勉強机の上に置いた。あとで南雲に返す。野江くんのお願いには耳を貸さないようにという事と、あと俺はそんなに胃腸が弱くない事を伝えておこう。 「同人誌に関しては不服ですけど事後のまといさん見れたんで今日は帰ってあげます」 「事後って言うな!!はやく帰れ!!」 背中を押して無理やり追い出す。 野江くんと同室になってから取り付けた部屋の鍵をかける。いつか突破されそうだから、もうひとつ増やそう。 「俺は追い出さないとこが好き」 早川に背後から抱きつかれる。単に追い出し忘れただけだ。スウェットの中に忍ばされた手を掴む。 「明日はっ」 「さわるだけさわるだけ」 真っ平らな胸を弄られる。次はお腹。次は。 「おいっ」 「感じちゃった?したくなっちゃった?やっちゃう?」 コリコリと、腰に早川のものが押し付けられる。 「ダメだって、シゴトあるし、あっ」 「今!!!!まといさんのえっちな声聞こえたんですけど!!!!まさかヤってるんですか!!!!」 なんで、まだ、そこにいるんだよ! 扉越しに野江くんが興奮している。 「寝ろ!!!」 俺はドアを叩いた。早川の手をスウェットから追い出して、ベッドに入る。早川も入ってくる。 「今度さ、野江クンに見せてあげよっか」 「寝言は寝て言え」 「じゃあ、寝言として聞いてもらいたいんだけど」 早川が俺の耳元に唇を寄せた。 「白濁にまみれた18歳のまといちゃん、めちゃくちゃエロかったよ」 ニヤついてる早川の顔を見て、俺もニヤつく。 「そこは『俺と結婚してくれる?』じゃないのか?」 「それは寝言としていえないから」 たまらなくなって、早川に抱きつく。 その後は、もう18歳男子高校生の体力次第で。 完

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