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第6話
腹の足しになり味が飽きないようにと添えたサラダとハーブウィンナーやスクランブルエッグ。まるで朝食みたいだが、妙に心躍るメニューだ。
「すごいな」
嬉しそうにはにかむ笑顔は少年のように純粋で、どこかで見たことがあるような懐かしい温かな笑顔だ。透の胸の中に巡って、きゅんっという小さな疼きをきらきらと振りまいて回く。
透もまた自然な笑顔を見せた。
「よかった。透さん笑ってる」
「え……。ああ」
彼の屈託のない姿に、どうにも調子が狂う。先ほど色っぽい顔をして自分に迫ってきたとは思えない姿だ。
(さっき告白されたばかりなのに、家に入れて。こんなの誘ってるって思われるかな。いや、思われても仕方なし、でしょ)
いつも通りアルバイト先の店長とアルバイトの適度な距離感で居たいのに、どうにも今宵は難しい。
普段の透ならばもっと慎重だろう。アルバイトの青年を急にプライベートな空間にいれるはずもない。
実際彼をここにあげるのは初めてだ。だから今日はきっと、透の中の人恋しさがそうさせたのかもしれない。
「コーヒーはいつもどおりでいい?」
「はい。ブラックで」
「じゃあ、いただきましょう。いただきます」
「いただきます」
二十歳そこそこの彼にかかれば、五枚重ねの薄いパンケーキなどものの数分もかからないでぺろりと平らげられた。
すごい勢いで皿の余白が増えるたびに、喉を詰まらせるのではないかと見ていてはらはらしたほどだ。タイミングを見て水とスープをお替りさせてやる。
世話を焼きながら自分も二枚ばかりのパンケーキをバターとメープルシロップというシンプルな内容で平らげた。
お腹が落ち着くと、獲物を平らげ満足げなライオンのような顔をして伏見は鳶色の瞳を細めている。じっと彼を観察していた透と目が合えば、どちらともなく笑みが零れた。
「美味しかったです。ご馳走様でした」
「お粗末さまでした。ねえ、あっちでお酒飲む?」
人恋しさからいつの間にか、透の方が彼を帰したくない気持ちになってしまっていた。
台所に食器を運んでくるのを受け取って、食洗機をセットすると、リビングのソファーを目線で示した。
「そんな無防備でいいんですか?」
背後から抱きしめようとしてくる腕をくるりとかわし、透の薄い唇が蠱惑的な笑みを刻む。
「いいよ。一杯ぐらい付き合って」
ワインをお洒落なグラスに注いでチーズを嗜むようなものではなくて、普段通り缶チューハイを両手に戻った透はレモン味の方を彼に手渡すと自分もプシュッと缶を開けた。
「それ飲んでダウンジャケットが乾いたら電車止まる前に帰りなね? その服お古だけど、サイズ合ってるし、お洒落で似合ってるよ。外出るのに恥ずかしい感じじゃないでしょ?」
伏見はチューハイをコクコク一気に半分まであおった透の白い喉元を眺めて目を細める。透は何か言いたげなその視線に首をかしげて応じる。
「この服、サイズ的に透さんのじゃないですよね? もしかして元彼さんの?」
「ゴホッ、ゴホゴホッ。またその話? そんなに気になるの?」
「気になります」
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