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第1話
いい人生だったか?
そう問われれば、まぁそれなりにいい人生だったんじゃないだろうか。
明日締め切りの課題をまだ終わらせてなかっただとか、明日発売の新刊が楽しみだったのにとか。
考えればたくさんの未練が思い浮かんだけれど、総合的に見たらまぁまぁいい人生だったと思う。
大学からの帰り道のことだ。今日はバイトもないし、まっすぐ家に帰ろうと、最寄り駅の改札を抜けた先で通り魔に襲われた。
わけのわからん奇声を上げながら、ナイフを突き出して突進してきた女を避けられなかった。
突然の出来事に俺は反応できず、腹で衝撃を受け止め、階段から転げ落ちたのだ。
受け身も取れず地面に転がったせいで打ちつけた頭は痛い。馬乗りになって滅多刺しにしてくる高笑い女の顔も、ぼやける視界では記憶することができなかった。
顔がわからなかったら化けて出られないじゃないか。
自覚した途端に全身が痛みを訴え始めた。視界も赤く染まって、地面にも血溜まりが広がっていく。
じんわりと腹部が熱い。まるでマグマでも抱えているみたいだ。指先から徐々に力が抜けて、熱いのに震えるほど寒くなっていく矛盾に、こんな状況なのに笑ってしまいそうになる。
「お前のせいよ! お前がいなかったら愛されたのはアタシだったのに!」
誰だよお前。
俺の友人には、こんなヒステリック女いなかったはずだ。
悪態を吐きたいのに、喉は掠れた咳しか出さない。
「お前が死ねば、お前がいなくなれば! 乃空 君はアタシを愛してくれるんだわ!」
恍惚な表情で叫んだ女に、一周回って冷静になった頭で俺は負けじと掠れる声で叫んだ。
――乃空 のガチ恋厄介勢かよ!
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