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第2話

 前略、俺を殺したヒス女へ。  お前のせいで、気を利かせてくれたありがた迷惑な神様(多分)が俺をトリップさせてくれました。 【トリップ】それは全オタクの夢。 【転成】既存のキャラに成り代わり転生する、ある一定層にウケるジャンル。  俺は!  オタクだし!  夢小説も二次創作も嗜んでいたけれど!  実際にトリップだとか成り代わり転生だとかしたいだなんて一言も言ってません!  ここでかっこ血涙かっことじとか書くと古感が出るのでやめておく。 「ノエル、貴方、リディル家のご令嬢とはどこまで進んだの?」 「はは、婚約者でもないのに、進むもなにもありませんよ、母上」 「エインズワースのご令嬢は? 年頃なら二番目がちょうどよいでしょうに」 「兄弟で、争いたくありませんから」 「まったくもう、貴方はいつもそんなことを言ってほかの兄弟に譲ってしまうんですから!」  俺――ノエル・デズモンドの向かいに座る金髪の麗しい貴婦人はマリア・デズモンド。俺を生んだ母親にして、デズモンド閣下の第二夫人だ。  デズモンド家とは殺戮・薬物・人身売買、なんでもござれな裏社会を牛耳る悪逆非道の悪役貴族。  当主・ゴルディアには五人の妻と五人の息子と五人の娘がいて、あろうことか俺は上から五番目の子供で、なんてこったい次男という看板を背負っていた。  紅玉のデズモンド。  蒼玉のミラー。  水晶のエインズワース。  デズモンド家は、清廉潔白公明正大なミラー家と水面下で争っており、中立の立場であるエインズワース家を引き入れた方が勝利するとまで言われていた。  デズモンド家とミラー家の争いに引っ張り出されるエインズワース家にしてみれば、とんだとばっちりだろう。  ノエル・デズモンドは、原作に直接的な関わりはなかった。だから俺は、母になんと苦言を呈されようとも、メインヒロインと関わるわけにはいかないのだ。  メインヒロイン――それはエインズワース家のご令嬢三姉妹!  長女のロリーナは、幼馴染の王族兄弟に囲われながらデズモンド家四男に執着されている王道ヒロイン。  次女のアリスは、ミラー家長男とデズモンド家長男にヤンデレられつつ伯爵令嬢と百合ップルをしている二度美味しいヒロインだ。  三女のイーディスは、騎士団長令息とラブコメを繰り広げながらデズモンド家三男とおねショタをしつつ異国の王子様に求愛される逆ハーヒロインである。  大事なポイントは、ここで登場するデズモンド家の我が腹違いの兄弟たちが、すべからく当て馬ということ。  当て馬とは言っても、設定ビジュアルが美形イケメン美女美少女揃いのために、からの人気も非常に高かった。  ――俺が転成した『ノエル』というキャラは、『俺』が愛読していた『駒鳥シリーズ(ヒロイン凌辱十八禁ロマンス小説)』に登場するデズモンド家兄弟(ヴィラン)……の名前しか出てこない(モブキャラ)である。

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