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第24話(other side)

 くるくるくる。  ぴゅろろろろ。  くるくる鳥が翼を広げる。ぴゅろろろ鳥が囀る。 「――お兄ちゃん、どこにいるの?」  薄暗い屋敷。怖い兄と姉。唯一優しかったお兄ちゃんは、本当の弟だけを連れていなくなってしまった。  やっぱり、半分しか血が繋がっていないからお兄ちゃんは連れて行ってくれなかったんだろうか。お兄ちゃんに意地悪ばっかりする馬鹿ばっかりだから、お兄ちゃんはいなくなってしまったんだろうか。  窓から見上げた空はムカつくくらい青く澄んでいるのに、心はまるでドン曇りだった。  大好きなお兄ちゃんがいないだけで、この屋敷はいつもよりも暗く、冷たく、恐ろしい雰囲気に包まれる。 「……サーシャ、また、ここにいたの?」 「……ミーシャ。うん、お兄ちゃんが、いる気がして」 「お兄ちゃんがいたら、マリアおば様はあんなに叫んでいないわ」  まっすぐの艶やかな黒髪を赤いリボンでツインテールにした可愛い可愛いわたしの唯一(おねえちゃん)。  半分しか血のつながらないきょうだいばかりのこの家で、唯一本当のお姉ちゃん。  わたしとミーシャは瓜二つの双子の姉妹で、母親でさえ見分けられないのに、どうしてかお兄ちゃんだけがわたしたちを見分けることができた。  だから、お兄ちゃんは――ノエルお兄ちゃんはわたしたちのお兄ちゃんになった。  耳をすませば、と奥からマリアおば様――ノエルお兄ちゃんのお母さまの金切り声が聞こえてくる。  マリアおば様はわたしたちには厳しいけれど、ノエルお兄ちゃんとノアにはとっても優しかった。  お兄ちゃんとノアがいなくなって、おば様は気が狂ってしまった。お兄ちゃんの影を追いかけて、屋敷内をさまよって、輝く美貌は狂ってさらに磨かれて、まるで幽鬼のようだった。 「お母様がお茶にしましょうって言っていたわ」 「……わかった。すぐに行くわ」  ふ、と窓の外で空をくるくると旋回する鳥から目を反らした。  鳥は好き。自由に空を飛び回って、わたしの見たことのない景色を見せてくれるから。 「鳥遊びは順調?」 「……あんまり。お人形遊びは?」 「普通だわ。……わたし、サーシャがいなくなるなんて嫌よ、イザベラもアレクシアも怖いわ。だから、絶対に、お兄ちゃんを見つけてね」 「お父様は、」 「閣下、って呼ばなきゃ」 「……閣下は、出来損ないには厳しいわ。多分、わたしも処分されちゃう」  血に濡れた未来を想像して、恐ろしさに声が震えた。  この家はおかしい。わかっているけど、逃げ出すなんてもってのほか。逃げ出したら最後、地獄の果てまで血の裏切り者を追いかけてくるの。 「――セシルお兄ちゃんのようには、なりたくないでしょ?」 「……うん」  細くて頼りない手をきゅっと握りしめた。  お兄ちゃんもいなくて、わたしたちが頼れるのは唯一の半身だけだから。森に投げられようと、海に捨てられようと、この手だけは離さない。  片割れを失ったら、お兄ちゃんがいなくなったときよりも悲しいんだろうか。  お兄ちゃんは覚えていないみたいだけど、お兄ちゃんにも半身がいたんだって。――長女(イザベラ)に処分されちゃったらしいけど。  くるるる、と鳥が飛んでいく。  大きな翼を広げて、自由の空を飛んでいく。  空を飛べる鳥なら、お兄ちゃんを見つけられるかもしれない。  もし、生まれ変わるなら次は鳥がいいな。

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