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第3話

   苦しかった。死ぬかと思った。サイアクだった。でも。最後に褒められたのは――ちょっと嬉しかった。 「アメとムチ的な」と感想を漏らした幹雄に、 「というよりは『DV野郎の甘い言葉』――洗脳的というかマインドコントロールの手法っぽかったけどな」  理人から冷たいツッコミが入った。 「最初は俺が判断してやろうと思ってたんだが」  あれだけの事をやってくれておきながら理人はしれっと呟いた。……幹雄の方から頼んだ事ではあったが。それにしてもノリノリだったような……。 「擬似的なものとはいえ――結局は自分で体験してみて、どうだったんだ? 女達の言ってた事は本当だったと思ったか? それともやっぱり嘘だったと思ったのか?」  端的に核心を突いた質問だった。  幹雄は「ん~……」と考えるというよりは軽く言い淀んでから、 「……俺、上手い下手じゃなくて酷いセックスをしてたんだなあ」  まるで他人事のように呟いた。 「『サイアク』だったのは女達じゃなくて東村自身だったってオチか」  理人にはふッと鼻で笑われてしまったが、 「…………」  今の幹雄には反論も逆ギレも出来なかった。出来た事と言えば、 「浜岸が最後にイッたのは……あれは演技じゃないよな?」  ちょっとした確認だけだった。それまでの振る舞いは「幹雄」に成り代わってしてもらっていたわけだが。 「演技で射精は出来ないだろ」  理人は呆れながら答えてくれた。幹雄は、 「……男はいいな。わかりやすくて」  しみじみと漏らした。 「女の潮吹きなんかエロ動画だけの話だとか言われて。別に潮なんか吹いてなくてもちゃんとイッたからとか言われて。それを信じて……俺は女をイかせまくってたとか調子に乗ってたけど。……全部、嘘だったんだなあ、きっと」  思い返して幹雄は落ち込む――というか脱力してしまった。 「なあ」と幹雄は改めて理人に声を掛ける。 「俺がイかせられてなかっただけでちゃんとイかせれば女は誰でも潮吹くんかな?」 「知らん」と理人は一言で答えた。斬って捨てるような回答だった。 「お前も女をイかせたコト……てか潮を吹かせたコトはないのか?」 「無いな」と即答されてしまった。またしても一言だった。  幹雄は「でも……」と考える。……浜岸理人はセックスが上手な気がする。ちんこのデカさとはまた別に。  コトの始め、理人のちんこを咥えているときに頭を触られたがその触り方だとか。びっくりして理人のちんこを歯で引っ掻いてしまった時の対応とか。最後の方、幹雄の下手なフェラチオに対して使われた腰の動きとか。理人が本気で女を抱いたら……ちゃんとイかせてくれそうな気がしたのだ。幹雄とは違って。  そんな理人でも女に潮を吹かせた事は無いという――てコトはやっぱり潮を吹いてなくても女はイクのか? イけば必ず潮を吹くわけじゃないのか?  それともそれとも。「浜岸理人はセックスが上手」というのは幹雄の勝手な勘違いであって、女に潮を吹かせた事が無い理人も実は「セックスが上手くない」という事になるのだろうか。 「…………」  幹雄は考える――……俺は過去に一度でも抱いた女をイかせてやれたコトがあったのだろうか。真剣に考える。真面目に考えてしまっていた。その結果――、 「浜岸。ちょっと俺にセックスしてみてくれねえかな?」  とりあえず浜岸理人のセックスは本当に上手なのかそれとも下手なのかを確かめてみようというコトになってしまったのだった。   「また東村のモノマネでか?」  理人の反応は「嫌」というよりも「面倒臭い」といった感じだった。  が幹雄は言外の意味を読み取れずに、 「イッたばっかですぐには無理か?」  ズレた質問をしてしまう。一仕事を終えて今は柔らかくなっている理人の股間に目を向ける。……小さくなってもデッカイのな。  幹雄の視線を目で追って――ふッと理人は短く笑った。 「東村が勃たせてくれるなら」  冗談を言うように理人は言った。幹雄は言葉そのまま、額面通りに受け取った。 「言ってもイッたばっかだもんなあ。……俺の下手なフェラで勃つかな」  ダジャレかラップかのような言葉を呟いた後、幹雄は弱気を覗かせた。  東村幹雄の弱気も珍しければ、 「下手というか。さっきは俺の手に驚いて歯が当たっただけだろ」  浜岸理人のフォローもまた珍しかった。  ――三分後。  幹雄の口の中でしっかりと理人のペニスは硬くなっていた。  やはり射精の直後だったという事で最初は舐めても舐めても吸っても舐めてもなかなかにペニスの硬度は高まらなかったが、それでも諦めずにねっとりと口での愛撫を続けた結果、お湯を入れたカップラーメンが食べ頃の柔らかさに戻る程度の時間で、幹雄は理人のちんこを再び硬くする事が出来た。 「やっぱ、目に見える成果ってのは嬉しいもんだな」  へへへと幹雄は明るく笑った。 「……クンニで女も濡れるだろ。潮吹き以前に濡れさせた事も無かったのか?」  理人からは冷たい茶々が入れられるも、 「んー。あれは俺のツバだったかもだしなあ」  幹雄は明るい声のまま自虐的な事を言う。 「…………」と理人は黙ったままその表情を崩していた。苦笑いというのか困り顔というのか、何だろうか……変な顔をしていた。 「――んじゃあ」と幹雄は気を取り直す。 「浜岸のセックスを俺に見せてくれ」  対して理人は、 「その『セックスを見せてくれ』ってのは『犯してくれ』って事で良いのか?」  冷静に話を詰めようとしていた。 「まさか俺一人にパントマイムみたいな事をさせようだなんて考えてないだろうな。エアーで腰振りとか死んでも御免だぞ」 「わはははははははッ。浜岸のエアー腰振りは是非、見てみたいけどな。――今回は俺を『犯してくれ』だな。見るっていうかちゃんと体感? 体験? しておきたい」  単語はあやふやながらも幹雄は固い決意を表明する。 「……何処までやるんだ?」  茶化さずに理人は尋ねた。 「どこまでって?」 「最初から最後まで普通にセックスをしていいのか?」 「勿論。それが見たいんだからな」  幹雄の気持ちは揺るがない。  それでも。理人はすんなりとは応えられなかった。 「……言質を取っておきたいな」 「言質?」  首をひねった幹雄に理人が「…………」と耳打ちをする。ホテルの一室で二人きりなのだから声をひそめる必要は無いと言えば無いのだが。理人が用意した言葉をそのまま幹雄に復唱されても面白くない。意味が無い。  理人は「具体的に」等の要点だけを伝えて幹雄自身の言葉を求めた。 「えー……と」  幹雄は幾らか考えた後、 「浜岸」  と真っ直ぐな瞳を理人に向けた。不覚にも理人はぞくりとしてしまった。 「俺を抱いてくれ。犯してくれ。セックスをしてくれ。浜岸のちんこを俺の尻に挿入してくれ。俺の尻の中で射精してくれ」  幹雄は言った。理人は「…………」とその言葉を軽く噛み締めてから、 「仕方がない。してやるか」  にんまりと笑った。  ホテルの一室、ベッドの上――全裸の理人が、まだかろうじてパンツだけは穿いていた幹雄に、 「脱げよ」  と囁く。間髪を容れずに、 「俺が脱がすか?」  と続ける。幹雄は慌てて自分でパンツを下ろす――かと思いきや、 「……いつもそうしてるんだったら。じゃあ」  などと言って、カラダを理人に寄せてきた。 「あ……ああ」と多少、面食らいながらも理人は幹雄の下着に手を伸ばす。赤地に黒色の細かい柄が入ったボクサーパンツだ。派手だが東村幹雄には良く似合っていた。 「ん……」と幹雄が小さく漏らす。  器用にも理人は指先で幹雄の尻を撫でながら、赤いボクサーパンツを焦らすようにゆっくりと下ろしていた。  理人に身を任せると決めたのは幹雄の方だったのだが、 「……早く」  恥ずかしさやもどかしさからついつい求めてしまった。理人がふふッと笑った。  全裸にされた幹雄は背中に腕を回されながら優しくベッドに押し倒される。  仰向けに転がった幹雄の上に理人が覆い被さっていた。 「……――んッ」  幹雄が何か言うよりも早く理人が幹雄の首を吸った。  押し当てられた唇が首筋を登って左の耳に到着する。 「はむ」と耳たぶを甘く噛んで口に含まれた部分を舌先でぷるぷると弄ぶ。  その間ずっと理人の右手は幹雄の左の乳首をくにくにとこねていた。  左のてのひらで幹雄の腹を撫でていた。 「……ふッ、……うッ、……んッ」と幹雄は身をよじる。  二人、三人に同時に愛撫されているようだ――というと大袈裟だろうか。  三つの箇所に別々の刺激が同時や交互やアトランダムに加えられる。耳などは噛まれながら舐められているわけだから厳密に言えば四つの刺激か。 「はあ、はあ、あッ、はあッ」と幹雄の呼吸は荒くなる。  耳から離れた理人の唇が鎖骨に押し付けられる。骨のカタチを確かめるように舌が這う。なめくじのように濡れた足跡を残しながら理人の舌は乳首に向かう。  こねくり回されて隆起していた幹雄の左の乳首がチュッと吸われた。チュッチュと吸われる。チューッと吸われる。 「んッ、んんん、んーッ」と幹雄は乳首を吸われるそのたびに甘い声を上げていた。  幹雄の腹を撫でていた理人の左手はいつの間にか幹雄の太ももにまで下りていた。  五本の指の腹が幹雄の太ももを優しくくすぐる。外側から内側に移動してくる。 「はうんッ」  幹雄は膝と膝を合わせるみたいに太ももを締めた。理人の左手が捕らわれる。  太ももと太ももの間、理人の左手が強くない力でもぞもぞと動かされる。理人の愛撫は止まらない。幹雄は少しも休めないでいた。  ベッドのシーツを握り締めていた幹雄の左手に理人の右手が重ねられる。  幹雄の指と指の間に理人の指が差し込まれる。白いシーツをしわくちゃに握り締めていた幹雄の拳がゆっくりとほどかれる。  幹雄の指と理人の指が絡まり合った――いわゆる「恋人繋ぎ」の状態になる。  理人の左手は狭い太ももの間を潜り抜けてその付け根にまで到着していた。  ペニスの勃起に伴ってぎゅっと凝縮されていた幹雄の睾丸を軽く撫でながら理人は左手を引き抜いた。 「おうッ!?」と幹雄が吠えた。強く左手を握る。理人の右手に握り返される。 「イキたくなったらイッても良いぞ」  理人が囁いた。 「あ……?」と幹雄が聞き返した次の瞬間、 「――んッ」  幹雄のペニスが理人に握られた。てのひらと四本の指で竿を包みながら親指でカリ首を擦る。  理人の右手は幹雄の左手と繋がったまま。唇は乳首から離れて脇腹に流れる。 「あッ、あッ、はッ、あッ」  へそに舌先を差し入れながら理人は幹雄のペニスを上下に扱いていた。  ペニスの先端から透明な液体がにじみ出る。それを親指の腹ですくって亀頭全体に馴染ませるように塗り込む。塗りたくる。

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