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第1話
妻と子、そしてまだ見ぬ子供を亡くし、絶望に沈む男がいた。
青信号の横断歩道を渡っていた男の家族に、高齢者の運転する自動車が突っ込んだ。
最近よく耳にするニュース。
それが、己の家族へと降りかかった。
泣いても、泣いても、泣いても、涙は枯れない。
腹が減っても食う気にはなれず、周りの者達がどんなに口を出しても頑なに口にはしなかった。
いや、出来なかった。
自分だけ生きていることを拒絶した。
男も、男の身体も。
液体以外を身体は受け付けず、固形はすべて吐いたのだ。
不幸を呪った。
生きていることを恥じた。
絶望するにはあまりに簡単で、黒いスーツを着た記憶こそあるが手元に遺骨が返ってきた記憶がない。
いつの間にか小さくなった家族を抱き締め眠るだけの日々を過ごしていた。
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