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第1話 出会い

 その男を初めて見た時、有希也は目を離すことができなかった。  男には惹きつけるものがあった。   有希也は自分の中に、こんな感情があるのかと驚いていた。  橋本有希也が勤めている会社と、その男が勤めているであろう会社は同じビルにあった。  28階建てのそのビルの最上階は展望台も兼ねた広いフロアーになっている。そのフロアーには誰でも自由に出入りができるラウンジと、その一角にガラス張りの喫煙ルームが設備されている。       そこに男がいた。  いつも15時過ぎになると、有希也は自分のオフィスを出て、このラウンジで休憩をするのが日課になっていた。  窓際のソファに座って、高速を走る車や川沿いを歩く人をただぼうっと見ているだけだったが、疲れた頭を休めるのには丁度よかった。  その男を見つけるまでは。  その日は天気予報通りに午後から雨が降っていた。傘をさした人がまばらに歩いている。  有希也はタバコは好まないが、何の気も無く喫煙ルームに目をやると、襟元をくつろがせタバコを取り出そうとしている男に目がいった。  ネクタイを緩める手に強い色気を感じた。そして眉間に軽く皺を寄せてタバコを吸う所作に見惚れてしまった。  有希也はその男から目を離すことができなかった。  どのくらいの間、その男を見ていたのだろうか。  何度目かの紫煙を吐き出した時に、男から一瞥を投げられた気がして、有希也はすぐに雨模様の街に目をやった。    そして自分の鼓動が落ち着くのを待った。

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