120 / 120

織姫星

畳と布団と浴衣と凌久 凌久を取り囲む全てが いつもとは違うシチュエーションで 全部挿れる前に無理になっちゃって ちょっと休ませてもらったら 凌久が、待てるかって言って 切なそうな顔して全部挿れられた その凌久の顔と、乱れた浴衣と… そんなの見たら イッてしまった こんなんでイクなんて そんな男だって思われたくないのに そんなんじゃないのに 今日はちょっと…特殊だから なんか変だから だから、ちょっと待って欲しかったのに 情けないとこ見られて こんなに綺麗な凌久に 不甲斐ないとこ見られて 恥ずかしくて 泣いてしまった そんな俺に、凌久は優しい言葉をくれて そして… 「…俺で欲情してよ…俺で欲情してる悠稀…見せてよ……」 そんなの言われたら もう… 情けないとか、恥ずかしいとか 気にしてる場合じゃなかった そんなの、何処かに消えてって ただ… 凌久が欲しい それだけ…… 「……凌久…」 「……ん」 「大丈夫?…ちょっと…何にも考えられなかった…凌久に…優しく出来なかった」 「……悠稀は…何も考えられなくなったって…俺が傷つく様な事はしないよ…」 「凌久が…好き…大切なんだ……凌久…」 「…分かってる…悠稀から…伝わってくるよ…」 汗と涙に濡れた凌久の顔… 体も全部… 濡らしたのは俺… 綺麗な凌久を… 「凌久を…こんなに濡らしていいの…俺だけ…」 「……ん?」 凌久の隣に横になり どこもかしこも濡れている、少しぼんやりとした凌久を抱き締める 「濡らして…?…悠稀も…濡れるから…」 「いい…濡れてる凌久…綺麗……そのまま…抱き締めたい」 「綺麗な訳…ないだろ……汚れる…」 「じゃあ…一緒に汚れたい」 「悠稀……を…汚し……たく…ない……」 凌久が、ウトウトしながら ようやく話す 「凌久…凌久……全部…好き…」 「……好き…俺…も……はる……」 「凌久…大切なんだ……凄く…大切なんだ……」 「……ん…は…るき…」 全部…俺に…… 凌久の…他より濡れている柔らかい部分に触れて 凌久の…他より濡れている下腹部に重ねる 全部…凌久……1つになりたいんだ… 1つ残らず欲しいんだ 「………ん…ん?」 「凌久…」 「……何時?…結構寝ちゃった?…悠稀…寝てないのか?」 「……もったいなくて…ごめん凌久……体…拭いてないんだ」 「…そんなん…悠稀の…義務じゃない………」 少し話すと、俺の胸の中…ウトウトして それだけで、愛おしさが溢れてくる 寝息…寝てる時の息遣い… 全てが愛おしくて 全然眠れなかった 「凌久…」 「……ん…悠稀…眠くないのか?」 「ん……全然眠くない…」 「…………何時?」 「2:30位」 「…………ん…ん~~~~っ!起きるか!」 「…え?」 凌久が、眠い目をこすっている 「凌久…真夜中だよ?寝てていいよ」 「ん~~ん…起きる」 「体…ちゃんと拭くから。シャワーは、朝起きてからで大丈夫だよ」 「そうじゃねぇよ」 ぱっと俺を見上げた凌久が 「悠稀、星空…見に行こ」 全く予想してなかった事を言ってきた 「……これから?」 「ん。まだ真っ暗だろ?シャワー浴びて来る」 「え…本気?これから外行くの?」 「そ…んっしょっと……うわ…俺の体やべぇな…」 そう言って、ほんとに起き上がったので 急いで電気を点けると 「浴衣…は…汚れるから、裸のままでいっか……んしょっ…」 と、立ち上がろうとした凌久が カクンと膝から崩れ落ちた 「おわっ!」 「凌久!」 慌てて起き上がり、凌久の体を支える 「凌久…大丈夫?足、挫いてない?どこか痛くしてない?」 「してない…けど…びっくりした~~」 「はぁ~~…俺も…凄くびっくりしたよ」 「ごめん。大丈夫だ」 「凌久…一緒にシャワー浴びよ?」 凌久を椅子に座らせて 体を洗い流していく 「悠稀…重要なとこは、自分で洗うから」 「全部、俺が洗ってあげるよ?」 「いや…悠稀に洗ってもらう(イコール)星空見に行けなくなる」 「…分かった」 それでも…いいんだけどな なんて… ほんの少し思っちゃって ほんとに俺の頭の中 変質者みたいになっちゃったんじゃないかな ちゃんと髪を乾かして 作務衣に着替えて、外に出る 「これは、懐中電灯必須だな」 「うん…凌久、離れないで?」 「もう大丈夫だって」 さっき、転びかけたばかりじゃん 凌久の腰を、しっかりと抱き寄せる様にして、支える 凌久… こんな真夜中に、眠い目をこすってでも起きて、外出掛けるくらい…星空見たかったのかな しばらく歩くと 夕方に訪れた、開けた場所へと出た さすがに、こんな時間に誰も居なかった 「……う…わぁ~~っ!」 「え?」 凌久が、空を仰いだ途端 嬉しそうな声を上げる つられて空を見ると… 「…うわぁ……」 信じられない位無数の星 「悠稀!流れ星!…あっ!また…」 何処を見ても一面星に埋め尽くされてて 見れば見る程…増えてってるみたいだ 「凄い…こんなに沢山の星…初めて見た…」 「俺も!すっげぇ~~!」 「ありがとう、凌久…俺1人なら、絶対見に来ようなんて思わなかったよ…」 「そんなん俺もだよ。悠稀と一緒だから…見に行きたいなって思ってたんだ」 見に行きたいなって… そんな風に思ってたの、全然気付いてなかった 良かった… 凌久の言う事聞いて、シャワーの時手を出さなくて… 凌久の楽しみ1つ奪っちゃうとこだった こんな綺麗な星空…見れないとこだった 「……悠稀…一緒に…光ってるみたいじゃね?」 凌久が、右手を空に突き出す 無数の星達に混ざって 凌久の右手の薬指も光っている 「……俺も…仲間に入れて?」 凌久の右手に、右手を重ねる 2つの同じ場所で同じく光る物が 星達の中、一緒に光ってる 「あの星空の…どれ位の星が、今でも光ってるんだろな…」 「…え?今でも…あ…そっか……光が届くまでは、凄い時間かかるんだもんね?」 「何百年、何千年…何万年……今見てる星全部が、まだ光ってるかもしれないし……まだ届いてないけど、光り始めてる星もあるのかもしれない」 「そっか…光らなくなった星だけじゃなく、光り始めてる星があるのかもしれないんだね?」 そう考えたら ほんとに凄いものを見てる この数え切れない程の星1つ1つに それぞれに辿って来た時間があるんだ 「俺達の光は、光り始めたばかりで、ほんとに小さくて、ほとんど俺達にしか届かない」 「凌久…」 凌久が、俺の右手と向かい合わせる様にして、握ってきた 「でも、確実に存在する。誰に気付かれなくても、たった何人かしか、綺麗だって気付いてくれなくても…そんなの…あの星達にとっては関係ないだろ?」 「……うん」 「俺達が光った証を…俺達の中に残せれば、それでいいんだ」 「うん」 「今日もまた…最高の証1つ…増えたな?」 「うん…凌久……連れて来てくれて、ありがとう」 綺麗な凌久… 綺麗で…綺麗で… 凌久と居ると 何気ない事で、泣きそうになるよ 凌久の手…少し冷たい 「凌久…手、冷たい。そろそろ帰る?」 「うん…でも…あと、少しだけ見てたい」 「ん…俺も。じゃあ…」 凌久の後ろから抱き付いて 凌久の両手に重ねる 「これで、少しはあったかい?」 「ん…あったかい……」 少しの間、ただ2人して星空を見る 見ても見ても、どんどん空が広がってく様で どんどん流れ星も見えてくる 「悠稀…」 「うん?戻る?」 「暁の星…順調に増えてるか?」 「凌久…」 俺ですら、今は凌久の事しか考えてなかったのに… 暁の事、考えてくれたの? 「……増えてるよ…」 「?…何か…あったのか?」 「あったって言うか……暁の母親…見付かったんだ」 「…えっ?…そ…それって……暁…母親んとこ戻ったりとか…そんな話になってんのか?!」 「…ううん…暁の母親は……亡くなってた」 「……え」 亡くなってた 半年位前に そう…警察の人が母さんに伝えに来てくれたそうだ 「そうか……暁…大丈夫なのか?」 「…分からない…暁のほんとの気持ちは……けど、暁の事…俺…抱いてないよ……」 「…そっか……あんまり…悲しくないのかな…いい思い出なさそうだしな…」 俺にも、そうとしか思えない けど… 母親に殺されかけた時の事を 少し嬉しそうに話してた暁を思い出す 暁には…暁にしか分からない思いがある 「その人…最後の数年だけど、なんか…いい人と知り合って、結婚してたみたいで…」 「えっ?!…はあ?!…結婚?!…子供、放り投げといて?」 「うん……結構穏やかな生活してたみたいなんだ…」 「…それは暁が聞いて…どうなんだ?複雑だな…」 そう…思ってた だけど、暁は…全然動揺してなかった それどころか… どこか、ほっとしてる様だった 「分かんねぇな…俺には、想像も出来ねぇわ」 「前に暁を襲った奴居るでしょ?」 「ああ…見付かったのか?」 「どうやって分かったのか…あの人含めて、その母親に金銭的な恨みを持ってる人達、そっちに行ってたみたいで…」 「マジで?!警察よりすげぇな…」 なんの仕事をしてる人なのかは知らないけど その旦那さんは、きちんとお金を返して その上で、一切関わらない様にさせたらしい だから多分… もう暁のとこにも来ないだろうって… 「そっか…そりゃ一安心だな」 「うん……暁ね…その話聞いてね…なんて言ったと思う?」 「う~~ん…これで、気兼ねなく出歩ける?」 「……暁ね……じゃあ、母さん…ちゃんと大切な人に看取ってもらえたんだね…って、嬉しそうに言ったんだ」 「………どんなんでも…どこまでも、母親は母親か…」 愛情なんて… たった一欠片しか貰ってないだろうに 自分がどれだけ異質だったか知ってく度に 母親も、どれだけ普通じゃなかったか、気付いてくだろうに 「もしも…暁が望むなら……警察の人に、母親のお墓…教えてもらおうかと…思う…」 「…そっか」 「きっと今の暁なら…大丈夫だと思うんだ……沢山の色んな思いあるだろうけど……」 あの頃を思い出してしまったって そこに佇んでしまう暁が居たって そこから引っ張り出してくれる人達が 暁の周りには沢山居る 「悠稀」 「凌久…」 凌久の上に重ねてた手の上に 逆に凌久が重ねてきた 「大丈夫だ。暁の星…これからも増えてく」 「うん…」 「とんでもなく、歪な星も…実は全然綺麗な色じゃない星も……暁の中の星空の1部だろうけど…綺麗な星…どんどん増えてったら…そんなのに惹かれたりしないさ」 「うん…そうだよね……」 「ふっ…しっかりしろ!」 くるりと向きを変えた凌久が 光を放つ右手で、俺の頬に触れる 「情けない声出すなよ。悠稀は、暁の中の綺麗な星、第1号だろ?自信持って、光っててやれよ」 俺の中で おそらく、永遠に1番綺麗な光を放ち続けるだろう凌久が、そう言って笑った 「うん…そうだね?ありがとう…凌久」 「よ~~し!悠稀も、いい顔になった事だし、星空も堪能したし、帰って露天風呂入ろうぜ?」 「露天風呂…忘れてた」 「忘れんなよ。悠稀と2人で入るの、楽しみにしてたのになぁ…俺の片想いだったか…はぁ…」 「ちっ…違う!寝る前までは、俺も思ってた!楽しみにしてたよ!両想いだよ!」 必死になって凌久の両手を掴んで訴えると ちゅっ え… 「知ってる。俺が荷物整理してた時、ぼ~~っと露天風呂見つめてる悠稀見てたから」 「…え…えっ?!俺…そんな…」 「悠稀、俺と2人で入ってんの想像してんのかなぁ…どんなエロい妄想してんのかなぁ…って思ってたから」 「エロ…違っ……そんなんじゃ…」 どんな顔してたの?俺… 俺…何考えてた? 「なんだ…俺は期待してたんだけどな……ま、いっか。ただ、普通に何もせず大人しく2人で…いや、そういう事しないなら…別に2人で入る必要もないか…1人ずつ…」 「すっ…する!」 「…ん?」 「そ…そういう事…する……から…2人で入ろ?」 これじゃ… やっぱりエッチな妄想してましたって、言っちゃってる様なものだ けど… せっかくなのに1人ずつなんて… 「ふっ…嘘。悠稀が居るのに、1人で何かするなんてあり得ない」 「あ…うん...」 「ごめん…色んな悠稀見たくって…焦って、そういう事するって言った悠稀…可愛いかった」 「っ…もう!……凌久…帰ろ?」 「ん…そうだな」 歩き出しながら凌久が、俺の手を繋ぐ 凌久の手を、ぎゅっとする 凌久が指を絡めてくる 俺も凌久の指に絡める 凌久が俺の右手の薬指に触れてくる 「凌久…」 凌久の左手の薬指にキスをする 「いつかここに…お揃いの指輪してくれる?」 「っ!……お…お前~~…」 「え…凌久…怒ってるの?」 「怒ってる!悠稀なんか、普通にしてたって周りに星背負ってるみたいな奴なのに!本物の星を背にしてとか…そんなん絶対敵わないじゃん!」 「…え?」 凌久は、何に怒ってるの? 言ってる意味が、よく分からない 「結婚…出来なくても……俺達の中での永遠を誓うのは…そういうプロポーズみたいのするのは…俺が格好良く決めてやろうって思ってるのに!そんなのに敵うシチュエーションなんて…どんなんだよ…」 凌久が、そう言って俯いている 結婚…プロポーズ… 「凌久…してくれようって…思ってくれてるんだ…」 「そりゃ…思ってるけど?」 それが… まるで当たり前の事の様に… 「……凌久が…言ってくれるなら…パジャマで…トイレでも……っ…そんなの…最高のシチュエーションだから……っ…そんなの…凌久がしてくれるなら…っ…なんだって格好いいから…っ…」 「……パジャマでトイレって…そんなプロポーズあるかよ…」 そう言って、俺の頬を優しく拭う 「今からそんなに嬉しがって泣くんじゃ…本番は、休みの前の日にしなきゃな」 「んっ…連休のっ…前の日にしてっ…」 「ふっ…どんだけ泣くつもりだよ…」 「だって…きっと……何度も何度も、頭の中で繰り返すから……その度に…~~っ…嬉しくて…泣いちゃうから…」 「って…泣いてんじゃん…」 きっと、今日の事思い出す こんな風に言ってくれてたな ほんとに…言ってくれる日が来たんだって 俺の右手は、凌久の左手の中 俺の左頬は、凌久の右手の中 覚えておこう この日も凌久は、格好良くて優しくて…綺麗だったって 数え切れない程の、満天の星達が光る中 どの星にも負けない位綺麗だったって… 「さ…行くか。露天風呂からもきっと…少しは星…見えるよ」 「うん」 「悠稀…夏の空で1番明るく光る星…知ってる?」 凌久だよ… 「ううん…」 「ベガだよ…行こう…織姫」 1番綺麗に光る凌久と 今日も…これからも……

ともだちにシェアしよう!