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第50話 僕の心臓は君の血で染まっている④【終】

 帰省から数日後。先週実施された期末テストの結果が、咲人の元へ返ってきていた。  全教科の結果が分かった瞬間、咲人は思わず安堵の声を上げる。 「よ……よかったー!」  咲人の成績は無事に、戻っていた。しかも少し上がったくらいだ。 「今回の綾瀬、凄い頑張ってたもんな。俺も安心した」 「一緒に勉強できたのも、楽しかったね」  そう。今回は理央だけでなく、北見や高山たちにも色々とお世話になったのだ。 「いつもありがとう、二人とも」  月ノ宮に入って、良い友人に恵まれて。自分は本当に幸せ者だと思う。  昼休みのチャイムが鳴った後、咲人は二人に声をかけて教室を出た。  向かう先は空き教室で待ってくれている、理央のところだ。教室の扉を開けた瞬間、咲人は勢いよく理央に飛びついた。 「理央、俺ちゃんと成績戻ったよ!」 「また走ってきたの?危ないよ」  理央は咲人の体を抱きとめた後、呆れたような顔でそう言った。 「はやく理央に会いたくて」  そう伝えると、理央は微笑んでくれた。  それからいつものように、理央との時間を過ごす。最近は昼休みになったらこうやって、教室で待ち合わせするようになっていた。昔を思い出すようで、咲人的には楽しんでいたりする。  ご飯を食べ終わって少し微睡んでいると、ふと首元に理央の視線を感じた。咲人は「どうしたんだ?」というように、首を傾げる。 「ねえ咲人、この包帯……外してほしいんだ。昔僕が付けた印をもう、隠さないでほしい。……子供みたいだって、笑う?」  そう言って少し緊張した顔で、咲人のことを見つめてくる。 「笑わないよ。俺、暑がりだし!」  元気よくそう答えると、理央は笑った。 「でも今は、冬だよ」 「じゃあ、理央があたためてよ」  そう言って、咲人は首元の包帯を解いた。ワイシャツから覗くその痣は林檎のように赤く、咲人の肌を艶やかに彩っている。そこへ理央が顔をうずめるようにして、抱きついてきた。首元にすりすりとあたる髪の毛がくすぐったい。ふと、窓の外に目をやる。 「……あ、雪降ってる!」  理央の腕の中を抜け出して、窓の外を覗きに行く。中庭では生徒たちがちらほらと、写真を撮ったりしているのが見えた。理央にも来て欲しくて振り返ると、少し不満そうな顔をしてその場に踏み留まっている。雪なんかまるで興味ないみたいな顔で、じっと咲人のことだけを見つめている理央。きっと急に離れられたのが嫌だったのだろう。本当にわかりやすくて、愛おしい。 「理央、ほら。一緒に見に行こう?」  咲人はそう言って、理央に向けて手を差し伸べる。  その瞬間、理央の瞳が大きく見開き、煌めいた。  ──ああ、やっぱり理央は世界で一番美しいな。  差し出した手に、理央の手が重なる。咲人はその手を優しく握りしめた。  いつか、理央のすべてを包み込めるように。理央が安心して生きていけるように。  一生をかけて自分が、理央の心を動かすための糧となろう。  咲人は理央の手を引いて、二人きりの世界を抜け出した。

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