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第30話 壊れてしまう*

「今すぐ首の後ろ(うなじ)を噛んで番になるのは待って欲しい」 悠里はそう梶に言った。 「なぜ?」 梶は少し驚いたようでと聞いてきた。 「僕はまだ、Ω専門法務士の試験に受かったわけではありませんし、今のままだと無職で先が何も見えません。しっかり自分の足で立てるようになってから梶さんと番になりたいです。このままおんぶに抱っこの状態じゃ自分が嫌です」 悠里が『そこだけは譲れません』という感じにはっきりと言ったので、梶さんは、反論したそうだったが言葉を呑み込んだようだった。 番になるということは結婚するということ。 梶さんは愛人になれと言っているわけではない。 それは勿論わかっているのだけど、もし、梶さんになにかあった場合や、例えば悠里が捨てられたら、一人で生きていくことがすぐに困難になるだろう。 子供がいたなら尚のことだ。 捨てられて、生きていけなかった自分の母親のようにはなりたくない。 せめて資格を取ってちゃんとした職を得てから、そういうことは考えたい。 悠里がそう言った夜から梶の執拗な攻めは愛の行為という名を借りて悠里に襲いかかってきた。 毎晩挿入される、しかも一度では終わらない。 梶の性欲は凄まじかった。 勿論梶との愛の行為はものすごく気持ちが良かった。 最後の方は毎回意識が飛んで気がついたら朝になっていた。 絶倫というのはこういう人の事を言うんだなと思った。 だけど、このままではやり殺される。悠里は身の危険を感じていた。 愛の行為に関しても取り決めをしておくべきだったと後悔した。 その日は梶さんの仕事が休みの土曜日だった。 昨夜も体が壊れるかと思うほど抱かれまくった。一週間休みなく抱かれ続けた翌日、悠里は恐る恐る切り出した。 「梶さんとの……その交わりというか、愛し合いというか……その…性行為は、とても気持ちがいいです。僕も何度もイカされて……ほんとにもう、すごいです」 悠里は梶の様子を伺うように言った。 「ありがとう。まだまだいけるよ?今からする?」 梶さんは悠里の腰を掴んでひょいっと抱え上げ膝の上に座らせた。 「や、ちょ、待てください違うんです!」 悠里は焦って梶の膝の上から下りた。 ははは、と笑って梶さんは先を促す。 「梶さんが絶倫なのはわかったし、体力も有り余ってて、仕事で遅くなってもスタミナが切れないっていうのも、もうなんていうか獣のようです」 「え、と……それって褒めてるの?」 「はい、もちろん。ですから、なんていうか……」 梶さんは堪えていたのか突然吹き出した。 ぎゅうっと悠里を抱きしめる。 「悪かった。分かってたけどね、ま、ちょっと頑張ってみた」 頑張ってたのか?そこをそんなに頑張る必要はなかったと思う。 梶さんの考えはちょっとズレてる。 梶さんは悠里を椅子に座らせると、訊ねてきた。 「悠里がΩ専門法務士の資格を取れれば嬉しい。君が今まで頑張っていたのを見てきたから、そうなればなによりだ。けれど、試験に万が一落ちたとしても、俺の気持ちは変わらない。悠里の事がずっと好きだよ」 悠里は顔を赤らめて俯いた。 「なのになぜ、うなじを噛ませてくれないのか。それが疑問だ。俺の事を信用していないということだと思う」 梶さんはそう言うと悠里のうなじにキスをした。 「信用と僕の将来の夢とを秤にかけ、二者択一を迫るのは間違っています」 勢いに任せて続けた。 「それはそれ、これはこれ、です」 梶さんはうんうんと頷く。 「なるほど、悠里が言いたいことはわかるし、そうかもしれない。では、なぜ、夢の実現と番になるという事の順序にこだわるの?番になったから夢をあきらめろと言っているわけではない」 ゆっくりと、言い聞かせるように話しができるのは弁護士だからなのだろうか。 何事にも動じず、自信があり堂々としている様はかっこいい。 けれど、これでは僕の方が無茶言ってるみたいじゃないか。 「こだわっているのは梶さんです。少しだけ待って欲しいと言っているだけです」 自分で言いながらどんどん話し合いはエスカレートして悠里は腹が立ち興奮してきた。 「それこそ、梶さんがセックスを毎日することによって、僕に番にならないから体を自由にするみたいなのは違うと思います」 「愛の行為はいやなの?」 「い、嫌じゃないですけど、物には限度っていうのがあって…体がもちません。壊れてしまいます」 「若いのに体力ないなぁ」 「は?今は性行為の話してるんじゃなくて、番の話?え?」 自分でも何を言っているのか途中でわからなくなってしまった。 梶さんはくすくす笑い、番の話は多分平行線だからもう俺が待つしかないんだろうなと思う。まるで仕方ないから折れてやるって感じであきらめ顔でベッドへ向かうと、服を脱ぎだした。 何をしてるんだと驚きの表情を浮かべる悠里を見ながら下着まで脱いだ。 全裸になると。 「見てこれ、悠里といると一日中勃ちっぱなしなんだよな」 と言い下半身の凶器のようにそそり立つそれを見せて手招きした。 信じられないと悠里は目を見開き、こんな話の最中に、自分の下半身を見せるなんて、変態なのか。梶さんはいったいなにを考えてるんだと腹立たしく思った。 一方、梶さんの勃起したその状態を見せられると、そんなに僕が欲しいのかと嬉しくも感じ、悠里の後孔はきゅんと締まった。

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