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第43話 日本

飯田は田中井の代理人である片山弁護士と話し合っていた。 「まさか佐倉悠里さんが、このような事を考えてらっしゃたとは、思ってもみませんでした」 片山弁護士は苦笑いしながら飯田の様子を伺っていた。 「田中井氏は今までに行ってきた悪質な行為に対して、償わなければなりませんから」 「報復からは何も生まれない。気は晴れるかもしれませんが、自らの身の置き方を間違えているように思います」 「まぁ、その辺は人それぞれ、考え方は違いますから。何らかの手段で対抗するのなら、彼にはこれしかなかったでしょう。その為に血の滲むような努力をし、Ω専門法務士になったのでしょうから」 「ご自分だけでも認知してもらい、田中井氏の子供として会社を継ぐ方が余程……」 飯田は話を聴くまでもないと首を振り、早速ですがと愛人の子供たち全てに対する認知について話し始めた。 飯田弁護士は、悠里が日本を出ている間にある程度話を進めたいと考えている。 なぜなら田中井氏側は、卑怯な手段を使ってでも悠里を取り込もうとするだろうから。 悠里がちゃんと話し合える状態ならいいが、彼は自分の生い立ちに対してかなりのストレスを抱えている。 精神的に耐えられる程強くはない。 悠里と共に働いてわかったことは、彼は全ての者を救いたい人間だということ。 決して自分一人が幸せになればいいとは思ってないことだ。 父親によって苦しめられてきたΩの母親たち、そしてその子供たち。全ての人たちに平等に権利がある田中井の資産。その権利を全員で勝ち取りたいと考えている。 だが、皆が、全員がというのは無理な話だ。 認知を望まない者もいる。関わりたくない者、早く忘れたいと思う者。 その人たちはわざわざ過去を掘り返したくはないだろう。 悠里はこの認知請求が、自分の境遇と同じような生き方を強いられてきた者たちが、少しでも過去の辛い経験から立ち直るきっかけになれば良いと思っている。 「田中井氏が任意に認知しない場合は、子どもの側から強制的に認知させる強制認知に踏みきります」 飯田は書類を読みあげる。 強制認知するには、家庭裁判所で「認知調停」や「認知の訴え」を申し立てる訳だから事が公になるのは目に見えている。 認知調停では、調停委員を介して父親と認知について話し合う。DNA鑑定などを行って父子関係が確認され、相手が納得すれば審判によって認知が成立する。

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