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第45話 日本

「田中井は全てを、内々に済ませたい意向です」 表情を変えずに片山弁護士は淡々と語る。 「数が多すぎて全てを終えるのにはかなりの時間がかかります」 運転手の沢田さんから預かった業務日誌がかなり役に立った。 愛人であるΩの女性の数は現在までに28名。子供の数は15名。 ただ、番になっていないその場だけの関係らしい女性まで数に入れると50人は下らないだろう。 ひとりひとり連絡を取り田中井との関係を聞くには人手が必要だった。 かなり骨が折れる作業を河合さんがやってくれた。彼女の功績は大きい。 「どうやってこの人物たちを特定したのか、そこを田中井氏は疑問に思っていました」 片山弁護士はそれとなく探りを入れてくる。 「この人数に口外しないよう口止めする事は容易ではないでしょうね」 飯田は質問には答えず、何処からでも情報の漏洩はあり得ることを示唆した。 「そちらとしても、できるだけ早急に事を進めたいと考えていらっしゃるでしょう。田中井側としては素早く終結させるため、慰謝料の金額を含む全般的な解決金でお願いしたいと考えています」 田中井側から出された提案は、DNA鑑定を行い、父子関係が確認されたものに、血縁関係が認められれば、すべての子供に対して慰謝料として300万を支払う。というものだった。 そして、その代りに「認知はしない」というものだ。 認知すれば遺産相続権が発生する。それを回避する目的のためだろう。 やはりとも言うべきか、彼の子供たちはそろって裕福ではなかった。 成人してから、過去の養育費請求はできないから仕方がない。 愛人の子供たちの考えは、何十年か後に手にするかもしれない数千万よりも目先の数百万に目が眩むのはやむを得ない事。 そこは飯田も考えている。認知しないのなら金額を吊り上げる。500万をこちら側は提示する。 大学資金などを考えると子供一人にいくらかかるか世の中の相場という物をわかっているのかと詰め寄った。 500万でも少ないくらいだ。 しかし田中井の子供で、大学まで出ている者は悠里以外にはいなかった。 そのため学費だのという名目では強くは出られない。 お互いの話し合いの結果、450万で手を打つことになった。 すんなり金額が決まったところを見ると、想定内だったと言うことだな。 田中井があと何年生きるか分からないし、その時に財産があるという確実な保証はない。 100歳まで生きたとすれば、財産分与を待つまでに自分の寿命が尽きるかもしれない。 悠里は納得いかないだろうが、子供たちにすれば認知されるよりも良い選択だろう。 そうなれば、やはり450万で手を打つのが得策だろう。成人していない子供に対しては養育費+450万で手を打った。総額は約8000万に及んだ 450万を支払う代わりに、けして他言はしないという条件が入った。

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