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第44話 水の魔王(5)
4ー5 童貞
「俺」
ハジメが僕のことを抱き寄せ僕の耳元でささやく。
「レリアスのことが好きなんだ。たぶん、愛してる」
「でも、僕は」
僕は、涙で視界が霞んでいくのを感じた。
「僕は、汚れてる・・」
僕は。
ラクウェル兄と邪神の手で何度も殺された。
一度目は、王子として。
二度目は、魔道師として。
そして。
自分自身すらも失いかけた。
それを救ってくれたのは、リリアンと、ハジメだ。
「僕は、邪神やラクウェル兄上の手で何度も何度も・・」
快楽を極め、何度もいかされて。
ついには、僕自身の手でラクウェル兄を迎え入れた。
僕は、もう、たぶんハジメやリリアンとは、暮らせない。
光の当たる場所では、暮らせないだろう。
「泣くな」
泣いている僕のことを抱き締めてハジメがささやいた。
ハジメは、ぎゅっと強く僕を抱くと僕に話した。
「あんたがどう思っているのかは、俺にはわからない。でも、言った筈だ。もう1人で背負おうとするなって」
「でも・・」
僕がそれでも言おうとするとハジメは、僕の唇に自分の唇を重ねてきた。
「んぅっ・・」
もう。
何も聞こえない。
ただ、お互いの呼吸の音と鼓動だけが耳の奥でこだましていた。
何度もキスされて。
僕は、振り落とされまいと必死にハジメにすがりついていた。
ハジメは、僕の下唇を軽く噛んだ。
「俺、キスとか、初めてだから。下手かもだけど」
ぼんやりとした頭でハジメの言葉をきいた僕は、ビックリして目を見開いた。
嘘だ!
絶対、嘘!
「初めてなの?ほんとに?」
僕がきくとハジメがうっすらと頬を染めた。
「俺、彼女とかいなかったし。それに俺がいた国は、そういうことあんましないとこだし」
マジで?
僕は、驚いていたし、信じられなかった。
だって。
僕は、ハジメのキスだけでこんなにもドキドキさせられてるのに!
「やっぱ、21才で童貞とかって引く?」
ハジメにきかれて僕は、くすっと笑ってしまった。
「まさか。僕なんて27才で童貞だし。キスも・・」
あれだけ酷く肉体を苛まれても、僕は、ほとんどキスを知らなかった。
ラクウェル兄は、僕にキスなんてしなかったから。
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