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第57話 初恋(5)

 5ー5 思い出  それから、ラクウェル兄の奇行は、始まった。  毎日のように届く僕宛のラクウェル兄からの贈り物にリリアンは、眉をしかめる。  「あいつら何をたくらんでるの?」  「まったくな」  ハジメがいまいましげに積み上げられた贈り物の山を見た。  僕は、困惑していた。  なんで、ラクウェル兄が僕に贈り物なんて贈ってくるのか?  ラクウェル兄の性奴になって3年以上が過ぎたけど、その間に贈り物なんてくれたこともなかったのに。  僕は、ラクウェル兄から贈られたものの山から小さな箱を一つ手に取ってみた。  箱を開けると中から出てきたのは、枯れた花だった。  それは。  遠い昔の物語。  僕がまだ小さな子供でリリアンがまだこの世に生まれてくる前のこと。  僕は、母上と二人っきりで暮らしていた頃、一度だけラクウェル兄に会ったことがあった。  それは、王家の人々が夏を過ごす別荘でのことだった。  その年、僕と母上は、どういうわけか招かれていて。  だけど、僕たちに用意されたのは湖の畔にあった小さな小屋だった。  それでも、僕たちは、幸せで。  二人で湖の周囲を散歩したり、森に出掛けたりして過ごしていた。  ある日。  僕は、王家の子供たちに誘われて森に出掛けることになった。  大人には、内緒で、子供たちだけでの冒険だ。  連中は、僕に言った。  「いいか?絶対に誰にも言うなよ」  僕は、頷いた。  そして。  子供たちは、僕を森に連れ出して置き去りにした。  暗くて、怖かったのを覚えている。  僕は、泣きながら歩いた。  いつしか夜がきて。  森の中で獣たちの鳴き声がきこえて、僕は、もう、生きて帰ることはできないと思った。  そのとき。  暗闇から小さな人影が現れて僕の方へとやってきた。  それは、ラクウェル兄で。  「まだ、生きてたのか。このぐずが!」  そういいつつも、ラクウェル兄は、僕の手を引いて歩き出した。  後できいた話だが、他の子供たちは、みな、僕が湖に行ったと大人たちにいったらしい。  だから、みな、湖を探していた。  でも、見つかるわけがない。  だって、僕は、森にいたんだから。  僕が生きて帰れたのは、ラクウェル兄のおかげだった。  でも、このことを僕らは、誰も大人に話さなかった。  結果、僕だけがめちゃくちゃ叱られた。  それでも。  僕は、このことを黙っていた。  後で、ラクウェル兄に別荘の庭園で再開したとき、僕は、湖の畔で摘んだ白い花の束を贈った。  お礼のつもりだった。  でも。  ラクウェル兄は、それを受けとると地面に捨て踏みにじった。  「こんな雑草を持ってくるなんてバカか?お前」  ラクウェル兄は、僕のことを嘲笑った。  その箱から出てきた枯れた花は、そのときの花に似ていた。  

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