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第37話

 あの日からライモは毎夜、あの結界内の小屋で寝泊まりしていた。  もし発情したユリが来ていたら、何日も放おっておくのは可哀想だと思ったからだ。  と、言うのは自分への言い訳で、本当はユリに会いたかったからだ。  その日も結界を開き、小屋のある庭に降り立つ。  毎度、庭に降りた瞬間、ガッカリした気分になる。  あの甘い香りがしないからだ。  発情したユリが来ていれば庭でも分かるほどの香りがするはずだ。  あの日から毎日毎日この気分を味わっている。 (ああ、発情期じゃなくても来いって言えばよかったなぁ)  沈みかけた夕陽がさらに淋しい気分にさせる。  ユリと一緒に過ごしたのはたった七日間だった。だがその七日間、ずっと二人でくっついて過ごしていた。  今はユリがいたそこにぽっかりと大きな穴が空いてしまったような気分だ。  ユリに会いたい。  ユリを抱き締めてキスしたい。  ユリが帰ったあの日からずっとそんな事を考えている。  夕陽を背にトボトボと歩き小屋の戸を開けた。 「あ、おかえりー」  声がしてライモは俯いてた顔を上げた。  ユリが寝床に座り、リンゴを齧っていた。 「ユリ……。なんで……」  ライモは驚き言葉が出ない。 「ん……暇だったから来ちゃった」  ユリが少し恥ずかしそうに笑いながら言った。 「ねぇライモ、リンゴ剥いてよ。食べにくいんだ」  ユリがそう言って齧っていたリンゴをライモに差し出した。 「……ったく、しょうがねぇなぁ」  ライモはニヤけるのを堪えつつそのリンゴを受け取った。  リンゴを剥いているとユリが肩に寄りかかってきた。 「ねぇ、ライモ。『運命の番』ってオークにもある?」  ユリがおもむろに聞いてきた。 「『運命の番』? しらねぇなぁ。お伽話(とぎばなし)か?」  ライモが聞き返すとユリは「フフ」と笑い答えた。 「そう、とても綺麗なお伽話だよ」 完

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