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第2話
「おかえり。相馬さんち、どうだった?」
奥田の顔をみて、店に帰ってきたのだとわ
かった。だがどういう道順で帰ってきたのか、まったく覚えていない。
「顔色悪いよ。大丈夫?」
「……平気です」
心配そうに眉根を寄せている奥田に、無理矢理笑顔を作ってみせる。引き攣った顔をみて、奥田はさらに眉を歪ませた。
あの子はクローンだった。それになんだあの痣は。
ある二文字が浮かび上がり、再び背筋に悪寒が走った。
どきどきと心臓は跳ね上がる。見てはいけないものを覗いてしまったような罪悪感が襲う。
誰も相馬家に行きたがらない理由が、ようやくわかった。あの少年の服装や痣をみて、常時ではあり得ない現状に目を覆いたくなったのだろう。どんな理由があるにせよ、虐待されている子に関わるのには勇気がいる。
それをただのバイトに任せるには、荷が重すぎた。自分もただのバイトに過ぎないが、少年がクローンならば話は変わる。
「家にいた男の子って圭くんっていうんだけど、生きてた?」
「……はい」
生きてた、と訊くなら奥田はあの家のことを少し知っているのかもしれない。奥田の目をじっとみつめていると、観念したように口を開いた。
「潮見くんが入るずっと前の話だけど、相馬さんちに最初に行った子から、子どもが暴力受けてるって相談されてね。それで僕も宅配がてら様子を見に行ったんだけど――」
圭という少年は、今日のように夏でも冬でもシャツ一枚の姿でいるらしい。おまけに身体にはいくつもの痣があり、ただ事じゃないと奥田は警察に相談した。相馬家の親類でもなく、宅配ピザの店長の意見を、警察は半信半疑だった。
だがあまりにも奥田がしつこかったので、家の様子を一緒に見に行く運びとなった。
「それでどうなったんですか?」
「圭くんの保護者に会えたよ。俺より少し年上の会社員らしくて、対応も普通でこっちが拍子抜けするくらい」
はは、と渇いた笑い声をあげたがその双眸は悲しそうに伏せられた。
「圭くんの身体を調べてもらったら、痣なんて一つもなかった。警察が質問しても、何もないです、の一点張りで、逆に俺が疑われたよ」
「そんな」
しょうがないよね、と奥田は苦しそうに笑った。見ず知らずの自分を簡単に受け入れてしまうほど奥田の器量は広い。器量が深い分、余分ものまで抱え込もうとしてしまう。
なんでもかんでも首を突っ込み、知らない間に傷
ついていることも知っている。恩人の辛そうな表情はみていられない。
「俺も妹がいてね、今は一緒に住んでないけど、圭くんと年が近いんだ。だからほっとけなくて」
「気持ちわかります」
本当は一ミリも理解できていないのに、奥田の気持ちを軽くしてやりたくて嘘を吐く。
それを見抜いているのかいないのか、奥田は口角を僅かにあげた。
「できるだけあの子と話してあげて。二、三言でいいんだ。無理だったらいいけど」
「大丈夫です。やります」
「ありがとう」
助かるよ、と肩を叩かれ奥田はキッチンへと戻っていった。
胸の中に残るしこりが重みを増す。圭、と口の中で唱えると息が詰まるほど苦しくなった。
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