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第8話
トンっと軽く両肩を押されたような気がした
「ぁっ……」
気付いた時には、身体がふわりと浮いているような感覚で、黒いフードを被っていた彼が、さっきよりも歪で嫌な笑みを浮かべているのが見えた
「バイバイ」
ニヤリと笑いながら手を振ってくる彼に手を伸ばすも、全然届かない
これ、落ちてるんだ…
手摺りを掴まなきゃって思うのに、手が届かなくて
周りの景色が異様にゆっくり過ぎ去っていくように見えた
なのに、なんでだろう
さっきから琥太郎 の顔ばっかりを思い出す
琥太郎 の困ったように眉を下げて笑う笑顔や甘えた顔、疲れてるのに笑ってる顔、オレのことを好きだって言ってくれてる顔、ちょっと照れた顔
全部、オレの大好きな琥太郎 の顔
これ、走馬灯ってやつかな
オレ、死ぬのかな…
それでも、いいかな…
琥太郎 が居ないなら、それでも……
「ひよっ!!」
遠くで琥太郎 の声が聞こえたような気がする
なんだか凄く懐かしい気がした
2人っきりの時にだけ呼んでくれる名前
琥太郎 が甘える時に呼んでくれる言い方
身体が何か生暖かいモノで濡れていくのがわかる
目の前がボーっとして、ちゃんと見えない
誰かに抱き締められているのか、触れてる部分が温かくて落ち着く
知ってる匂い
大好きな人がいつも付けている香水の香り
「……コタ?まぼろ、し…でも、や…と、あえた…」
霞んでいく意識の中、諦めなきゃいけない好きな人を見るなんて、どれだけ未練があるんだろう
どれだけ、彼に会いたかったんだろう
これだけは、伝えたいな…
幻でも、妄想でも…
「コタ…だ、すき…」
ずっと見ていたいのに、眠たくて仕方ない
頬を撫でて貰える手が気持ち良い
ずっと、触って欲しかった大好きな人の手だ
今どきの幻って、好きな人に触れられるんだなぁ、と悠長なことを意識が落ちる直前に思っていた
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