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ホルマリン漬けの夢

ある日私は、ある人物から手紙が届きその人物と会うことになった。 都内のオフィス街に五十年以上前からある喫茶店。 その一席に座る若い青年のいる方に向かい、一言声をかけ青年の向かいの席にかけた。 マスターがメニューを訪ねてきたので彼も分も含めオリジナルの珈琲を頼んだ。 しばらくすると珈琲が運ばれ机の上に珈琲のいい匂いが広がった。 席についてから一言も話さなかった彼が立たずを飲みつつ一言 「私は、貴方の息子です。」 クラシックの緩やかなBGMが流れていた店内から音が無くなった気がした。 彼の名前は、大塚 聖。 彼とは、先日30になった息子の結婚式で息子の結婚相手の招待客として初めて会った。 息子??突然のことで理解が出来なかった。 すると少ししかめた顔をして大塚さんは、カバンから1枚の写真を出した。 「これは、私の母です。あなたは、母を知っているはずです。」 そこに出された写真を見た瞬間息が出来なくなった。 その写真には、30年前に付き合っていた人物 三橋 雪という人物とそこにいる彼が写っていたからだ。 だが彼が子供を産めるはずがないのだなぜなら。 「だが彼は、βのはずだ。それに君と名字が違うでは、ないか。」 少し驚きからか少し荒い口調で言うと彼は、一呼吸してから彼との日々について話し出した。 ______________________ ホルマリン漬けの夢。 僕が物心着いた時には、この施設にいた。 一緒に住むみんなも、職員さんも優しいしたくさんでは、ないがご飯も食べれて本当に幸せだと思う。 ただ学校の運動会や授業参観、母の日などの家族に関係するイベントの際に家族が誰も居ない現実を見ると血の繋がった家族が欲しいと感じたし、大人になったら自分の血が繋がった本物の家族を作ると心に決めていた。 しかし小学六年生になる頃に自分の恋愛対象が女性ではなく同性の男性であると気づいたと同時にβ性であることがわかった。 だから血の繋がった家族は、諦め心から愛し愛される人物に出会えるようしようと考えた。 家族が居ない施設育ちというコンプレックスを解消するために少しでもいい高校、大学に進学した。 大学に進学した時運命の出会いをした。 彼の名前は、石垣 悠真さんで同じゼミの先輩であった。 初めは、ゼミの飲み会で未成年なのに無理やりお酒を飲まされそうになったところを助けてもらいその後も施設を卒業し大学近くの安いボロアパートを借りて、カツカツの生活をしていた僕を心配してよくご飯に連れて行ってくれたりした。 彼は、αで実家も国内外問わず高級なホテルをいくつも所有する会社の創業者一族の本家で跡取り息子である。 だがそんなことを鼻にかけるでもなく誰に対しても優しい彼。 そんな彼に惚れるなという方が難しい。気がついたら彼のことを好きになっていた。 そして幸運なことに彼も僕の事を好きになってくれており付き合うことになった。 付き合い出して2年間は、僕の人生の中で2番目に幸せな日々であった。 しかしそんな幸せも長く続かなかった。 僕が大学3回生、彼が社会人1年目になったクリスマスの日彼とデートの約束をしており待ち合わせ場所に待っていた。 寒空の中彼がくれたコートはおり、凍える手をポケットに入れ彼を待っていた。 1時間、2時間、3時間。 光り輝くイルミネーションと幸せそうなカップルをみながらひたすら彼を待ち続けた。 そして彼を待って4時間が経とうとした。 しかし彼が来る気配もなくそろそろ終電の時刻になったため彼に一言メッセージを入れその日は、終電で家に帰ることにした。 彼に会えなかった寂しさと来なかったショックから家に入った瞬間涙が溢れてきた。 お腹は、空いていたがご飯を食べる気分にならずそのままベッドで目を閉じた。 翌朝彼から謝罪の連絡が入っていた。 嫌われたくない一心で大丈夫だよ。と一言メッセージを返した。 その後僕も本格的に就活がはじり彼と会える機会が減っていた。 しかし3月を迎える頃かれから会って話したいと言われ会うことになった。 都内のオフィス街にある年20以上前からある喫茶店。 窓際テーブル席に座る彼の向かい側に座ると彼はおもむろに 「運命の番に出会った。 彼は、身内も居らずバイト先もヒートがきついという理由でクビになった。 運命の番で俺にしか彼を救うことが出来ない。だから別れて欲しい。」 一瞬なんのことか頭が真っ白になった。 どうしてなの。 つい1ヶ月半前まで僕のことを愛してくれていたし、愛し合っていたのにどうして。 僕だって家族は、誰もいないよ。一人ぼっちだよ。 施設育ちという理由で内定だってまだ貰えてない。 なのにどうして同じ境遇のΩってだけで彼が良くて僕がダメなの。 そんな嫉妬、恨み、悲しみ憎しみといった負の感情が渦巻き黙って下を向いていると追い打ちをかけるように 「元々付き合いたい。番たい等は、なかったがクリスマスに初めてあってから彼に金銭的援助だけをしていた。しかし1か月前、援助をする際に彼がヒートを起こし気づいたら彼と番ってしまった。そしてその時に俺との子を妊娠してしまった。だから責任をもって彼と結婚し家族として子供を育てたいんだ。雪には、きちんと慰謝料も払わせて欲しい。」 番になってしまっただけでなく妊娠をしてしまった。 そう言われ自然と涙が溢れた。 彼の番は、これから愛されて幸せになり家族ができるのに。 僕は、愛してた人すらいなくなって1人になるのか。 1か月半前に彼と性行為をした際に噛まれて膿んでしまった首も少し痛んだ。 しかし子供に罪は、無い。 Ωが1人で育てられるほどΩに社会的地位がない。1人で育てられなくて僕みたいに施設に引き取られ寂しい思いをするかもしれない。そんなことあっては、ならないと思う。 大丈夫。また1人に戻るだけ。僕が僕1人が我慢するだけで幸せになれる人が増える。 そう思うと自然と答えが出てきた。 「うん。わかった。彼と子供を幸せにしてあげてね。いくら大きな会社の次期社長だからって僕なんかにお金を払わずに産まれてくる子供のためにお金を使ってあげて。」 そう言って涙を拭いて珈琲代を置いて僕は、店を後にした。 彼と別れてすぐの頃は、全てが鬱になり夜な夜な泣いていたが1ヶ月も経つ頃には、少しずつ受け入れ始めた。 しかしストレスからか食事の匂いや、食事で気分が悪くなり嘔吐を繰り返した。 さすがにご飯を食べれない苦しみから僕は、別れてから3月でやっとの思いで病院を受診した。 そしてご飯を食べれなかった理由が妊娠しており、悪阻であったことがわかった。 そして性別もβからΩに変わっており元彼と番になっていることがわかった。 医師からは、訳ありで身内の居ない僕に堕胎を進めたが子供に罪は、無い。 そして何より血の繋がった家族ができることが嬉しくて仕方なかった。 しかしバイト代を貯めていたからとは、いえ金銭的余裕もない。 しかし何よりも宝物ができた僕は、強かった。 大学を退学し物価の高い都内から離れた港町に引っ越した。 家で出来る内職をしながら貯金を使い生活を行った。 そしてその年の秋僕は、港町の小さな医院で息子である聖を出産した。 この街に住んでる住民は、出産費用が無料で少しばかりの祝い金も貰え暫く内職と貯金、祝い金で生活をすることができた。 しかし貯金とは、いえたかが学生の貯金。 聖が半年になる頃には、ほとんど消えてしまっていた。 このままでは、聖と共に餓死してしまう。 そう考え苦渋の決断では、あったが元彼に金銭的援助を頼もうと彼の職場近くに息子の聖と共に向かった。 退勤し出てくる社員の中から彼を見つけた。 彼に声をかけようと近づこうとした時彼の番である青年とその腕に抱かれた子供が彼に近づき仲睦まじく歩いていった。 声をかければ届く距離しかしこの距離が数百キロにも離れているように見えもし声をかければ彼の番や彼の子供を路頭に迷わせる可能性もあると思い声をかけずに彼とは、反対側を向いて歩いた。 羨ましい。もしかしたら僕と聖が同じ立場で隣出歩いていた未来もあったかもしれないのに。そんな嫉妬心を抑え歩いた。 少し離れたところで腕に抱いている幼い息子に対して「ごめんね。ママやっぱり人の幸せ壊せないや。聖には、どんな手を使ってでも絶対にひもじい思いさせないからね。」 そうして僕は、1人で育てることを決意した。 初めての出産でパートナーが居ない不安。 そして幼い息子には、少し寂しい思いをさせるが日中は、保育所に預けスーパーでアルバイト。 夜は、風呂とご飯を終えた息子をスナックの控え室で寝かせスナックで夜中2時まで働いた。 毎日休む暇もなく息子との生活のために働いた。 いくら寝不足と疲労でクタクタでしんどくても息子の顔を見るだけで元気が出た。 最初遠巻きに見ていた街の人も息子の可愛さや持ち前の明るさで少しずつ仲良くなっていった。 息子が5歳になった時スーパーのバイトから正社員昇格した。 そのため約5年お世話になったスナックのバイトを卒業することになった。 スナックのママたちには、困ったらいつでも頼りなさいと言われ感謝しか無かった。 昇格し正社員になって直ぐにヒートが始まった。 以前に処方された抑制剤を飲み息子をスナックで友達になった同じ歳のΩである大塚 ノアに預けヒートに耐えた。 友達のノアは、番がおりその人と結婚もしている。 しかし不妊でなかなか子供ができない状態だったため夫婦揃って本当の息子のように息子を可愛がってくれていた。 そんな2人に預かって貰ったことで彼らのことが大好きな息子も喜んでいた。 番が居ないヒートは、大変で彼の匂いでひたすらに探し発狂しながら薬で抑えることしか出来なかった。 彼の名前を呼びながら自分の手でなんども鎮めた。 彼の名前を呼ぶと彼の本物の番は、同じヒートでも彼に愛されて幸せなヒート期間を過ごしてるのかな。 Ωにとって番と過ごすひーとは、幸福感が上がると聞くのに。 僕も彼の番なのに彼との幸せなヒート期間を過ごせないし、過ごしたことすらない。 彼の本物の番が羨ましくて涙を流しながら意識を失った。 彼の綺麗な部屋でヒートで辛く泣いていいると彼が来てくれた。 その瞬間彼の爽やかなフェロモンに包まれた僕は、それだけでイってしまった。 彼は、まるで割れ物を扱うように僕にやさしいキスをした。 彼に僕がなんで泣いているのかと聞かれ 「僕は、悠真さんの本当の番じゃないから。僕は、悠真さんと結婚してないから寂しい。朝になったら運命の番の元に行ってしまうんでしょ?」 そう訪ねると彼は、クスッと笑い 「変な夢を見たんだね。俺たちは、結婚したじゃないか。それに俺の運命の番は、雪だけだよ。 俺は、雪以外に番なんていないよ。怖い夢を見たんだね。」 そう言って彼は、僕の薬指に指を置いた。そこには、綺麗な結婚指輪がはめられており僕は、微笑んだ。 そして彼は、僕を優しく抱いた。 幸福感が僕を襲った。 その瞬間目が覚めた。 僕と息子の住むボロいアパート。 彼が来た痕跡すらない。 夢の時よりやせ細った薬に光り輝く結婚指輪なんで嵌められていなかった。 なんだタチの悪い夢だったのか。 そんなヒートを繰り返すと徐々に番のフェロモンが枯渇し番枯渇症になってしまった。 あの夢も番枯渇症の症状であったと聞かされた。 やっとの思いで正社員になり働き、なれた仕事も休みがちになりしまいには辞職をしてしまった。 かなり枯渇症の進行が早く息子が6歳になった時には、ご飯を受け入れなくなり寝たきりになっていった。 もう自分が長くないと思い息子に貯めていた貯金と息子を大塚夫婦の養子として引き取ってもらい息子が大人になった時自身の出生に興味を持ったら見て貰えるよう彼の写真や彼と息子のDNA鑑定の結果。 また何かあったかを録音したテープを預けた。 6歳になる息子は、彼の血を濃く受け継いだのか周りの子よりも成長が早かった。 きっと息子は、αだ。 そう確信すると自然と安心出来た。 息子には、幸せになってもらいたい。 いつか愛する番を作って幸せな家族を作って僕の分まで家族と幸せになって欲しい。 秋の始まりで少し暖かい日差しの中僕は、息子と友人に囲まれ眠るように目を閉じた。 短い人生であった。 結局息子には、寂しい思いをいっぱいさせてしまったし一緒に遊びにいくこともあまり出来なかった。 しかし息子と過ごした日々は、僕が生きて来て1番幸せな日々であった。 ホルマリンは、付着や匂いを嗅ぐだけで人体に甚大な障害が起こり発がん性が高い。 しかしホルマリン漬けにつけられたものはほぼ永久に保存ができる。つまり僕の人生で彼と息子は、ホルマリン漬けのような日々。 そんな夢のような日々であった。 ______________________ 私の息子と名乗る彼が話た彼の母、私の昔の恋人との数年間話。 自分の身勝手な行いにより妻と似た境遇であった愛していた彼を裏切り無意識に殺してしまった後悔が襲いかかった。 そんな私を見て一言 「母は、裏切ったあなたを最後まで憎んでなんて居ませんでした。今回この話をしたのは、慰謝料や養育費のためではありません。 母のお墓に1度手を合わせに来て欲しかっただけです。 また私は、一切貴方からお金を受け取るつもりもございません。これを。家族が待っているので私は、これで。」 そう言って彼は、1枚の住所が書かれた紙と珈琲代を置き荷物をまとめて店を後にした。 そんな彼の左手の薬指には、シルバーのリングが嵌められていた。 その輝きがやけに私の目に残った。 後日その住所に向かうと海の見える小高い丘の上にお寺がありその一角に元恋人のお墓があった。 お墓に花を備え拝んだ。たった数分に感じたが気がつくと夕方になっており夕日が海に向かい沈んでいた。 もし雪が生まれ変わっているのなら次こそは、本当に幸せになって欲しい。 そんな自分勝手な願いしか願うことしかできなかった。

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