3 / 4

第3話

 おかしい、普通じゃない、こんな事はあり得ない。そう思うのに彼の金色の瞳を見ると逃れられなかった。肉厚な長い舌で喉奥まで届くのではないかと思うほどに口腔を余すところなく舐られてゆく。ずりゅ、ずりゅ、と舌腹同士を擦り付けられるとじわりとむず痒いような感覚があり、互いの舌が溶け出してゆくようなふわふわとした快感にじわりと肌が汗ばんできていた。  こんなキスをしたのは初めてだ。だが、夢の中では幾度も幾度も彼とこうして密度の高いキスをしてきたのを覚えている。 「っ……ん、んっ、は、ふっ」  たまらなく心地が良い。じわりと生理的な涙が目尻を濡らし、旭は迷わず男の首に腕を回す。夢の中と同じように男は……エドシエルは旭の唇を貪りながらベッドに横たわる旭の薄いブルーのワイシャツに手をかけた。トラウザーからワイシャツの裾を引き抜き、潜り込んだ掌がしっとりと汗ばんだ肌に触れると旭の肩がひくりと揺れる。にゅるっとすっかり蕩けたような舌同士を押し付けながら、その指はきゅうっと旭の乳首を摘まんだ。 「んっ! は、ぁっ」  じりっとした鈍い快感に旭は身を強張らせる。男の乳首など何の為にあるのかと思っていたというのに、男に抱かれる夢を見るようになってから旭はつい興味本位で自慰の際乳首を弄るようになっていた。夢の中でこの男になぶられる度に旭の身体は敏感に反応を示していたし、たまらない快感を覚えていたように思えたからだ。実際に弄ってみたところで最初は殆ど何も感じなかったのだが、一週間ほど続けていたらじんわりとだがじれったいような疼きを感じるようになってきていた。  だが、エドシエルは摘まんだ乳首を指の腹ですりすりと押し潰して擦りながら一度離した唇をもう一度かぶりつくように、そして更に深く塞いですっかり熱く蕩けてきた舌を再びぬちぬちと絡ませてくる。 「ん、んっ……っ、ぁふ、んッ」  ぬりゅ、ぬりゅ、と舌腹を執拗に押し付けて擦りつけながら時折上顎をざらりと擽られると鼻に抜ける声が漏れてしまう。ぞく、ぞくっと頭の芯と腰の奥の方から同時に疼きながら増して行く熱と満足に取り込めない酸素のせい思考がぼやけてきて、気持ち良いのか苦しいのか自分でもわからなくなってきていた。ぐちゅぐちゅと濡れた水音と小さく漏れる熱を帯びた声がどこか他人ごとに思えて、それでも酸素を求めはふりと息を吸うと同時に目尻から流れる涙が驚くほどに熱いと感じる。  ずっと擦られ続けていた乳輪がいつの間にかふっくらと膨らんできて、くにくにと乳首を転がされるとじんじんと切ない痺れが腰の奥の方へと響いて思わず膝を擦り合わせてしまう。深くしつこいキスが気持ちいのか、乳首を刺激される事が気持ち良いのか、旭はわからなくなってきていた。 「アサ、お前はやっぱりいやらしくて最高だよ」  漸く唇を離し、エドシエルは満足そうに金色の美しい瞳を細めて笑う。いやらしいとは何だと言い返したいのに長く深いキスに息が上がってしまった旭ははふはふと息を吸うほかない。脳が熱でどろどろに溶かされそうなキスは初めてで旭の何もかもがついていけていなかった。 「いつものように、お前は俺に身を任せていればいい。お前の体を俺は良く知っているから」  あんなのは全部夢だ、夢だったはずだ。それなのにエドシエルは夢で何度も見たように美しい笑みを浮かべながら、夢の中と同じように旭の衣類を脱がしてゆく。旭は彼のその手つきを良く知っていたし、これから彼が自分の身に与える甘美な時間も知っている。  散々指先で弄んでいたふっくらと立ち上がった乳首があらわになると、エドシエルは躊躇なく真っ赤な舌を押し当ててずりゅっと舐め擦った。途端、びりびりっと鈍い電流のような刺激が腰骨を震わせる。 「んッ……ん、あっ……あ、あ、ふっ」  驚くほどに熱い舌がぷっくりピンク色に主張している乳首を押し潰し、こそげ取ろうとするように何度もずりゅ、ずりゅ、と擦る。かと思えば尖らせた舌先で左右に弾くようになぶられ、そしてぐにゅっと押し潰してはちゅうっと吸われてまた尖らされた。じんじん、じんじんと腰まで甘く重い痺れが響いて堪らない。びくっびくっと肩と腹筋が無意識に小刻みに跳ねるのを止められなくなってゆく。こんな感覚は、こんな快感は知らない。夢で見たものと現実ではまるで違う。体が熱い、逃げ出したい、苦しい。 「あっあっあっ、やっ……やっ、だめ、なにっ……あっ、やだっ」  乳首を舐められているだけだ、そう分かっているのに喉の奥が震え押し出されてくる嬌声が止められなかった。もう片方の乳首も同じように熱く真っ赤な舌先でぷっくりと勃起させられ、濃いピンク色に熟れたところを美味そうになぶられて旭は逃げ出そうとするように腰を引く。しかし男は、悪魔はけしてそれを許してはくれずやんわりとボクサーパンツ越しにペニスを握りこまれて旭はビクンと身を跳ねさせた。 「良かった、しっかり気持ち良くなってくれているみたいだね。アサはこうされるのが好きだろう?」  男の長く形の良い指が下着の布越しにゆっくりと根元からペニスを撫で上げ、張った部分の下を爪でカリカリと引っ掻く。ビクッと腰を浮かせた旭をエドシエルは上から抑え込み、再び乳首をぢゅうっと吸いながら掌全体を使ってペニスを擦り始めた。 「ふっふぅっ、んっ、あッ、だめ、それっ……っ! んんっ」  ペニスへの直接的な快感が加わり、旭は焦った。エドシエルの体格の良い体で遮られ見えないが自分のペニスはすっかり形を変えて下着を濡らしているだろうということは窮屈さと濡れた感触でわかった。大きな掌に包まれ、しゅこしゅこと擦られながら同時にぷっくりと熟れて熱を持つ乳首を舌先でずりゅずりゅと擦られると頭の奥がカッと熱くなって息が詰まるほどの快感に襲われる。腹の奥がぎゅうっと重く、熱くなる。たまらず背中を反らせば、それはまるで自ら胸を彼の舌に押し付けにいくような姿勢となってびくびくと腰が戦慄いた。 「あ、あ、あ、いくっいくっ……っ!!」  ビクン! と背中を反らし、思わずシーツをぎゅうっと握り締めて旭はエドシエルの手の中で果てた。じゅわっと下着が生暖かく濡れる感触があり、目尻からこめかみまでぼろぼろと涙が流れ落ちる。一瞬目の前が白く見えたほどの快感と浮遊感にも似た解放感にくたりと体の力が抜けた。  しかしエドシエルはそんな旭の様子に構わず旭のボクサーパンツに手をかけてずるりと脱がした。べっとりと白濁した液体で濡れたペニスが外気に晒されて少しひんやりとする。脱力したペニスをエドシエルの浅黒い長い指が根元から撫で上げて、その直接的な感触に旭はびくりと身を震わせてシーツにつけていた背中を持ち上げる。するとエドシエルは指先を濡らした精液を旭に見せつけるように、その金色の瞳でじっと旭を見据えてそれを赤い舌で舐めとった。  思わず、ぞくりと背筋が震える。 「さあ、今度は俺を楽しませてくれよ?」  噎せ返るような色気を漂わせ、彼は楽しそうに笑う。旭には、その金色の瞳がギラギラと瞬いているように見えた。

ともだちにシェアしよう!