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最終話 暁月夜②
「おっおい、だから全部俺の意志じゃねーんだって……」
「もおお、何でそんなにモテんのさ!? 透夜のバカッ!」
「そんなこと言われても」
「もう、どれも不正解だよっ!僕が聞きたいのはここだよ、こーこ!」
つんつん、と透夜の胸を指でつっつく。
「胸の発作、ずっと気になってたんだけど、無理に聞かれるのは嫌かなって思ってたから……。でももう誤魔化せないからね? いいかげん、ちゃんと話して! 僕のために、こんなになるまで無茶してさ、もっと自分のことも大事にしてよ!」
むぅ。ほっぺたを膨らませた暁は飯を食う時のリスに似ていた。
「ちょ、笑うとこじゃないけど!?」
「悪い」
「ほんとだよ」
だって可愛いかったから。そう言いたかったが、言ったらもっと怒らせそうだ。
「分かった。ちゃんと話す。つっても、俺だってはっきりとは分からなねえけど。なんだろうな、生まれつき心臓の許容範囲が狭いっていうか、少し無理すると発作が起こって倒れんの。そんだけ」
「そんだけ、って……」
「だって本当に分からねえんだもん。ただ、発作が起きるとすげー苦しくて、毎回死ぬんじゃないかって、怖くなる」
「透夜」
「治っても、その度に俺はあとどれくらい生きられるんだろう、あとどれくらい長く、暁の側にいられるんだろうって、考えると、気が狂いそうになるよ──」
透夜はもう一度暁の頬に触れた。その指と肌の隙間に熱い涙が沁み込んできた。
「あき、」
「……大丈夫。大丈夫だよ透夜。だって僕を見て? 僕を誰だと思ってるの」
「え……」
飯を食うリスに似たガキだろ。とは言えない。
「これでも兄さまの名代として、羽山城主を務めたんだよ? 名門羽山一族の次男坊、僕なら、国中から名医を呼び寄せられる。透夜のためなら城の金子も宝物も、全部治療につぎ込んでもいい!」
「いやそれはやめて……」
「とにかく!!」
バンと布団に手をつける。
「僕が透夜を絶対に助けてみせるから、それまで大人しく待ってて!?」
「……お、おう……」
いつかの問答無用過ぎたプロポーズを思い出させる押しの強さだ。
普段は優しげで穏やかなのに、ここ一番ではいつも有無を言わせない。
「そうと決まればさっそく薬師に相談しよう! 南蛮渡来の医者も当たってみなきゃ……」
ブツブツと言いながら部屋を出て行こうとするので、慌てて引き止めた。
「待てよ」
「なに?」
「なにじゃねーよ、こっちこい」
こいこいと手招きすると、暁がストンとしゃがんでにじり寄る。
「もっと」
言われてもっとにじり寄った。
「本当は俺からいきてえんだけど、動けねえからなー」
「へ?」
「顔、近づけろ」
「かお?」
素直にひょこっと突き出された頭を、寝床から回した腕で絡め取る。ぐっと引き寄せてその唇を奪った。
「んんッ!?」
「ありがとな、すげー嬉しい」
それから、こつんと額を合わせた。
「心臓 とはずっと孤独に戦って、孤独に死ぬんだと思ってた。でもそこにあきが居てくれるんだって思ったら、すげーなんか、ホッとした」
「と、透夜……」
ふたりはもう一度唇を重ね合った。
舌を差し込んでいじめると、唇の弱い暁が雛のような声を漏らした。
「はー、色っぺー……」
「ばか」
「……抱き潰そうと思ったのに」
「その怪我じゃ当分ムリだね」
また額をくっつけ、クスクスと笑う。
「嬉しそうだな、ちくしょ」
腹を立てたフリに任せて三度目の口づけをした。
口の奥に引っ込んでいる暁の舌を探り、やわやわと蹂躙する。
「ひゃぅっ、……はぁっ、……とう……ぁ、ひ、んんっ……」
「逃げんなよ」
「だって、」
「嫌なのかよ?」
問えば暁は無言になったが、やがて耳まで真っ赤に染めて、
「……ううん」
とかぶりを振った。
終
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