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第8章 菫8
北野さんが気まずそうに苦笑する。
少ししゃがれた低い男の人の声。メッセージを使っていたときと比べて、砕けた口調だ。でも粗野な印象や乱暴な感じはしない。少し早口なところもあるけど、はっきりとした口調で喋っているから何を言っているか、わかりやすい。北野さんの声を聞いていると、なぜか落ち着く感じがする。不思議だ……。
「なかなか次にってならないですよね。ぼくも北野さんと一緒で、メッセージを送っても、うまくいかないことのほうが多かったです」
『ですよね』
「でも今回、こうやって北野さんとデートのお話になって、結婚相談所も使ってよかったって思いました」
『はい、俺も村山さんと、こうやって話せて嬉しいです。いろいろと不慣れなところもあって、失礼なことをしてしまうかもしれません。ですが村山さんに楽しんでいただけるデートにしたい。一緒に楽しみたいっていう気持ちは本物なので、改めてよろしくお願いします』
彼のまじめで誠実さを感じさせる言動に自然と笑みが浮かんだ。
「こちらこそ、お願いします」
『またメッセージとか、電話とかも仕事の合間や休憩時間にしても大丈夫でしょうか? 勉強のお邪魔になったりしませんか!?』
「大丈夫です。ぼくも、もっと北野さんと話したいです」
そうして期待と不安を感じながら、北野さんとメッセージや電話で他愛ない日常の話をしていたら――あっという間にデート当日になってしまったのだった。
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