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1 妹の幸せを望む男の性
俺はごく普通の大学生だった。
しかし何故か異世界に転生した。
そこはよくあるファンタジー世界で、俺は悪役令嬢とやらに生まれ変わったのだ。
マリア。それが転生した令嬢の名前。
令嬢だから女かって?
それが、設定の上では女だが、実体はごく普通の男。
容姿は、前世での俺自身そのもの。
中肉中背でそこら辺に良くいる男である。
ただ、顔はそれほど悪くないと自負している。まぁ、モテる方だと言っておこう。
さて、男と断言するからには当然の事、あるべきモノはちゃんとついている。
だから正真正銘の男なのだが、人からは、まごうことなく令嬢マリアとして認識されるらしい。
これがストーリー強制力というもので、まったく奇妙な世界である。
で、俺が転生の時に、神らしき存在に教わった知識といえば、俺は、このまま何もしなければ、バッドエンドで人生の幕が閉じるという事。
恐ろしい。
どうも、俺が転生したマリアはそれはひどい悪女で、この世界のヒロインであるソフィアの4人の恋人候補である、アラン、ロベルト、ヴェイン、ユーリの全員を寝取ってしまうのだ。
しかもマリアとソフィアとの関係は、寮の同室の上級生、下級生。つまり『姉妹』という親密な間柄ときている。
ソフィアは、信頼していた姉マリアに裏切られ、ショックの余り自ら命を絶ってしまう。
それが世に知れる事となり、マリアは責めを受け、裁判にかけられ追放。そこで非業の死を遂げる。
なんたる悲劇。
回避方法は、いたってシンプル。
ソフィアを幸せにすればいい。つまり、アラン、ロベルト、ヴェイン、ユーリの誰でもいいから、ソフィアとくっ付ければいいのだ。
立ちはだかるのは、オリジナルのストーリー通りに進ませようとする得体のしれない強制力。
いいぜ、やってやろうじゃないか。
あがいてやるぜ、そのストーリー強制力とやらに。
ソフィアの恋人は俺が面倒を見てやる。
幸せにしてやるぜ。
俺の熱き魂は、めらめらと燃え上がっていた。
****
ここは学園に併設された女子寮。
俺とソフィアの部屋。
「マリアお姉様、おはようございます! 朝ですよ、起きて下さい」
「……ふあーあ、おはよう、ソフィア……今日も元気だな」
「はい! ボクは元気だけが取り柄ですから」
元気いっぱいでそう答えるソフィアは、小首を傾げてにっこりと笑う。
俺のベッド際にきて毎朝起こしてくれる。なんとも出来た妹である。
ソフィアは、ボクっ子の女の子。
金髪のショートヘア。
丸顔に垂れ目。笑顔が愛くるしい。
服装は、上はセーラー、下はショートパンツがいつもの格好。
この世界のヒロインという立ち位置なのに、ずいぶんボーイッシュなファッションである。
でも、とても似合っているからこれはこれでいい。
「今日も可愛いよ、ソフィア」
「……そんな。お姉様も、素敵です。今日もとてもお美しいです」
そう言って恥じらいの顔を見せる。
もう慣れたことだが、ソフィアには、俺は憧れの美しい年上の女性に見えているらしい。それで、よく賛辞を言葉を口にする。
それにしても可愛い。
なのだが、俺はソフィアに対して性的な目で見る事はない。
俺の女の好みの問題なのか、はたまた姉妹である役どころのせいか。
まぁ、とにもかくにも、俺は、この可愛い妹の笑顔を大切にしたいと心から思う。
「ソフィア、絶対にお前を幸せにしてやるからな」
「はい!! お姉様、大好き!」
「俺も、大好きだよ、ソフィア」
俺は飛び付いてくるソフィアを優しく抱き締め、頭を撫でてやるのだった。
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