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「息子さんがいなくなられたのはどういった経緯なのでございますか?」 「ふむ、(ウォン)の話では学校に行ったまま帰らなくなったそうだ。朝は普段と変わらず登校したようなのだがな」  彼が帰って来なかった翌日に(ウォン)老人が学校にも確認したところ、きちんと出席していたという。 「では授業が終わった放課後に姿を消してしまったということでしょうか」 「そのようだな。冰という息子は気立ての良い子だそうでな。(ウォン)本人はもちろんだが、周囲の誰に聞いても老人思いのやさしい息子だと評判だ。血は繋がっていないが本当の孫のようだったと皆が口を揃えている」  ということは反抗期というわけではなさそうだ。 「――左様でございますか。となると、やはり何らかの事件に巻き込まれたと考えざるを得ませんな」  (ウォン)老人は息子が行方不明になってからというもの、寝る間も惜しんで城内はもちろん、地上の街まで必死に捜し回っているそうだ。 「そのせいで(ウォン)は相当心を痛めているようなのだ。今のところディーラーとしての技に影響は出ていないようだが、このまま心労が続けば良くないことは目に見えている。何とかその息子を捜し出してやらんと私も手を尽くしてきたのだが、最近になってようやくと手掛かりが見つかったのだよ」  (スェン)の言うには、なんとその息子を城壁内の遊郭で見掛けたという情報を掴んだそうだ。 「城内の遊郭でございますか。確かに……ここには男色専門の妓楼もございますからな。ではその少年は何者かによって拉致にでも遭い、男遊郭に売り飛ばされたということでしょうか」 「その可能性は高い。あそこには偵察も兼ねて我が組織の者らもたまに出入りしている。その内の数人が目にしたというのだから、見間違いと判断するには早急過ぎる。息子というのは大層見目の良い少年だそうでな。おそらくは遊郭街のどこかにいると見て間違いない。ただし――お前さんも知っての通り、ここの遊郭はある意味特殊と言える。我々とて、おいそれとは手が出しずらい」 「ええ、あそこは治外法権のようなものですから……」  つまり、いかに香港裏社会を仕切るマフィアであろうが、はたまた城壁の皇帝であろうが、商売については易々口を挟めないということになる。仮にその少年が不当な理由で拉致され、売り飛ばされていたとしても、足を洗わせてくれとは言えないということだ。

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