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日中は学園生活同様の授業のようなものを受けさせられ、夜は既に男娼として客の相手をしている先輩たちの手伝い方々、座敷での立ち居振る舞いなどを見学させられていたそうだ。
教えられる内容は一般高校の教育とは違い、政治経済と語学のみを徹底的に叩き込まれたという。ただし冰は元々日本人の夫婦の子として生まれた――いわゆる日本人だ。生まれ育ったのはこの香港だが、そんなわけで広東語に英語はもちろんのこと、日本語も流暢だったので、語学という点ではさほど苦労はなかったという。他の者は特に日本語の点で苦労していたそうだ。
「ふむ、そうか――。政治経済に語学ね。お前さんがいた北宿舎の連中は皆そうだったわけか?」
「はい。住む部屋はそれぞれ個室で、宿舎と呼ばれていました。僕の部屋は四号室ということで、北四番と呼ばれています。北宿舎に住む者たちは同じ教室で授業を受けますが、夜の兄様 方のお手伝いの時は二、三人一組に分けられて別々のお座敷で見学でした」
「なるほど――」
つまり北宿舎に集められた者たちは、ゆくゆく高級男娼として売り出される――いわば見目の良い者たちのグループだったに違いない。政治経済や語学を叩き込み、政財界や社交界で立場のある太客を満足させられる質の高い男娼に育て上げる為であろう。
「お前さんのいる北の他にも宿舎はあるわけか?」
「はい。他には東宿舎、西宿舎、それから南の宿舎があります。四神をモチーフにしているとかで、それぞれの宿舎には色違いの紋章が付いているそうです」
冰のいる北宿舎には玄武が掘り込まれた黒い紋が掲げられているそうだ。
「授業の内容も別々で、僕たち北の者たちは他の宿舎の人たちと会うことはありませんでした」
「そうか――。では北以外の宿舎の者たちがどんな教育を受けているのかは知らんわけだな?」
「実際に見たわけではないのですが、噂では聞いています。東の宿舎の人たちは舞踏と音楽の授業ばかりだと聞きました。西は武術とか執事さんがするような立ち居振る舞い、南の宿舎では……床技というのだけを叩き込まれるとか……」
「……ふむ」
それは何とも驚きだ。つまり、この遊郭街に売られて来た時点で各々の個性によって東西南北に振り分けられ、その特技や向き不向きを活かすような教育がなされるというわけか。
「――なるほどな。それで、宿舎にいる者たちは皆お前さんと同じ歳くらいの若者なのか?」
「はい。多分そうです。少し年上かなと思われる人もいますが、僕たちは自分の家族のことや年齢のことを教え合ってはいけないと固く言われているんです。ここに来る前にどこでどんな暮らしをしていたのか、そういう素性のようなことは一切口にしてはいけないと、初めてここに連れて来られた時に宿舎の先生からそう教えられました」
東西南北それぞれに宿舎長と呼ばれる監督者がいて、起床から消灯までのスケジュールや宿舎での規則などを厳しく指導されるのだそうだ。
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