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「あ……りがとうございます。本当に……何と申し上げてよろしいか」
「ではこの話、受けてくれるのだな?」
「は――。皇帝様が本当にそれでよろしいのでしたら……」
「いいに決まっている。俺もお前さんのような弟を持つことができると思うと嬉しいのだ」
「皇帝様……」
「うむ、ではこれからよろしく頼むぞ」
「……こちらこそ……! よろしくお願いいたします」
冰は立ち上がると、最初に見た時のように深々と腰を下げては、「多謝 、皇帝」と言って胸前で手を合わせた。心から感謝をいたしますという意味だ。
その姿、仕草の逐一が可愛らしく思えて、焔 は自分に弟がいたとしたらこのような気持ちになるのだろうかなどと胸があたたかくなるのを心地好く感じていた。
何はともあれ、婚姻という形をとって遊郭街から救い出すという計画に合意できたところで、焔 はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
「ところでボウズ。お前さん、ここへ連れて来られた際のことだが――。どのような経緯だったのかを詳しく教えて欲しい。誰かに無理矢理拉致されたのだろうことは想像がつくが、それはいつだったのか、またお前さんを連れ去った者は何人で、どんな者たちだったのかということをだ」
拉致犯は男だったのか女だったのか、複数人か単独犯か、連れ去られた際の場所はどこだったのか。またその手段についても詳しく聞かせて欲しいと焔 は言った。
「はい……、僕が連れ去られたのは学園からの帰り道でした。相手は男の人で三人でした。じいちゃんが入院したからすぐに来て欲しいと言われて……僕は焦ってしまって。疑いもしないで付いて行ってしまったんです。車で病院まで送ってくださると言うので乗ったところ、いきなりハンカチのようなもので口を塞がれて……そのまま眠ってしまったんだと思います」
気がついた時にはこの遊郭街だったそうだ。
「目を覚ますと先程の菫 さんという方がいて……気分はどうだとおっしゃって親切に介抱してくださいました。その後、紫月 さんに紹介されて、僕はこの遊郭街に売り飛ばされたのだと聞かされました」
取り立てて酷い扱いを受けたりはしなかったという。名前や家族構成など簡単な質問を受けたそうだが、その時点で紫月 が黄 老人の息子だと気付かなかったのは『雪吹冰』という『黄 』とは関係のない名前だったからだろう。
面接の後に今住んでいる北四番の宿舎を当てがわれ、そこで同じように拉致されてきただろう少年たちと出会ったそうだ。
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