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「なるほどな――。それでボウズ、既に男娼や遊女となって働いているお前さん方の先輩連中だが――。彼らがこの街を出て自由になる事例を見聞きしたことはあるか?」  冰のような新人を次々と育てていることからして、逆にいえば現役の遊女や男娼が引退して、この街を出ていく者たちもいなければ数の上でも辻褄が合わないことになる。そこのところの事情はどうなっているのだろうと思うわけだ。  冰も訊かれている意味が分かったのだろう、現時点で彼の知っている限りのことを話してくれた。  それによると、現役の男娼たちがこの街から解放される条件は主に三つほどに分けられるのだそうだ。 「一つはお客様に気に入られて身請けされることです。その際は大金といわれる身請け金が必要になるそうですが、そうまでしてもお客様に望んでいただけるような男娼になれれば何よりだと……学校の先生方はおっしゃっています。二つ目は病などでお座敷に出ることが叶わなくなった場合です。その場合はこの街の外れにある病院に入院となりますが、復帰が認められないくらい体調を壊してしまった先輩方がその後どうなったのかは分からないです。先生も教えてくれませんし、ただ先輩方の噂では……殺されてしまうようなこともあるらしいと……チラッとですが聞いたことがあります」  だから極力体調管理には気を遣えと教えられているそうだ。 「――使い物にならなくなれば葬られるということか」  ありがちだが、それが事実だとすればこの遊郭街を含めた九龍城砦内を管理する(イェン)の立場としては放り置けることではない。この冰のようにある日突然拉致されて来て、有無を言わさず客を取らされ、挙句は身も心も蝕まれた上、秘密裏に始末されるなど到底あってはならないことだ。本人はもとより、外で待っている家族や恋人などの心痛を思えば尚更である。  治外法権と言われてきたこの特殊な遊郭街には、思っていた以上に底知れない闇の部分が存在するということか――。いずれにせよ、やはりこの街には見て見ぬふりをしておけない事情があるように思えてならない。更なる調査の上、父の(スェン)にも報告して真相解明が必要になろうと(イェン)は思うのだった。 「して、三つ目とは?」 「はい、三つ目は主に年齢が上がってしまった場合です。大抵の場合は三十歳を境に現役引退となるそうですが、その時点で年季が明けていない場合は遊郭街の掃除や各妓楼の調理場などの仕事に回されると聞きました」 「――三十歳が境とな」  まあ色を売るにしても若さが重要になってくるのだろうことは察しがつく。客を取るのが難しくなる年齢となっても当初の目標額が稼ぎ出せていない場合は、裏方の仕事に回されて働き続けさせられるというところか。  冰曰く、三十歳まで我慢すればこの街から解放されるかも知れないという僅かな希望を胸に、ここで生きていくことを覚悟したそうだ。

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