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 それにしても、この冰のように芸事に重きをおいて売り出される男娼ならともかく、色主体で客を取る者たちにとって十数年という月日は永い。むろんその間に身請けされてこの街から抜け出せる場合もあろうが、声すら掛からない者にとっては厳しかろう。毎夜の如く客を取り続けていれば心身ともに病んでしまうのではないだろうか。そうして病に罹れば秘密裏に葬られ、次々に新たな若者たちが補充され続ける。実際は三十歳まで我慢すれば――どころの話ではないのだろう。  ここは特殊な街といえど城壁内の一部であることに変わりはない。統治する立場の(イェン)にとって目を瞑ってしまっていいわけがない。  今回、冰の件がきっかけでここの実態に触れることができたものの、実情は想像していたよりもはるかに酷いと思われる。父の(スェン)も言っていたように、大々的にメスを入れて膿を出し、何なら一度この街自体を壊して建て直すくらいの改革が必要不可欠ではないかと思えるのだった。 「三十歳――か。だが実際、そこまでまともに生きていられる者がいるのかどうか疑わしい話だな」  (イェン)が眉根を寄せながら独りごちると、冰もまた遠慮がちにうなずいた。 「僕が三十歳になるまでにはあと十三年あります。ただ、じいちゃんも高齢ですし、三十歳になって運良くこの街を出られたとしても……じいちゃんが元気でいてくれるかと、それだけが気掛かりでした」 「――そうか」  確かに(ウォン)老人は高齢だ。十年以上変わらずに息災でいられるという確証はないわけだ。 「だったら尚のことだな。一刻も早く(ウォン)の爺さんを安心させてやりたい。ボウズ、俺とお前さんの婚姻については早急に事を進めるつもりだ」  今しばらく辛抱してくれと言って、(イェン)は大きな掌で少年の黒髪を撫でた。 「皇帝様……ありがとうございます。 本当に……何とお礼を申し上げても足りません」  潤み出した涙を堪えながら、冰は鼻をすすった。その華奢な肩をやさしく引き寄せて、(イェン)は逞しい腕の中にそっと抱き包んだ。 「心配するな。お前さんの身はこの俺が保証する。俺たちは生涯を誓い合った婚約者だ。もうお前さんは一人じゃない。必ず助け出してやるから今しばし待っているんだ」 「はい、はい……!」  大丈夫だ、案ずるなと言いながら再び頭をやさしく撫でる。その温もりがあたたかくて嬉しくて、冰はこぼれた涙をそっと拭ったのだった。 ◇    ◇    ◇  一方、紫月(ズィユエ)の部屋で世話になることとなった遼二は、(イェン)らと同じようにこの遊郭街のことを始めとした世間話に興じていた。  とはいえ紫月(ズィユエ)はここ男遊郭を仕切る頭である。冰のことでは意外なほどに理解を示してくれたものの、そう易々とは裏事情を聞き出せるはずもなく、とにかくは当たり障りのない話題で和やかなひと時を心掛ける。紫月(ズィユエ)は紹興酒とつまみを勧めてくれて、二人で丸テーブルを囲みながら互いに一献を傾け合った。

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