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28 高級男娼の部屋で過ごす一夜

紫月(ズィユエ)さん――といったな。アンタ、その若さで男遊郭を仕切る頭とは――大したものだな」  ここでは長いのか? と尋ねる。すると紫月(ズィユエ)はニヤっと意味深げに笑ってみせた。 「紫月(ズィユエ)でいいよ」  さん付けは必要ないと言って笑う。 「ここへ来たのは生まれて間もなくってところかな。俺自身はまだ赤ん坊だったからね。よくは覚えてねえが、物心ついた時にはここで生きることが当たり前の生活だったってとこ」 「ほう? 赤子の時分からここで育ったと――」  では生まれは城外なのだろう。言葉に出しては訊かずとも、遼二の視線が『どこで生まれたんだ?』と言いたげなのが分かってか、紫月(ズィユエ)はまたしても意味深げに笑ってみせた。 「そういうアンタはどうなんだ。鐘崎組といえば日本の極道として名高いが、住まいは当然日本ってことだろ? 今回は皇帝様と一緒にあの冰君を捜す為に香港へ?」 「まあ、そうだ。冰という少年は周家にとって大事な爺さんの息子だそうだからな」 「それはご苦労だったな。じゃあ、冰君の件が片付いたら――また日本に帰るってこと?」 「いや、香港へ来たのはそればかりが目的というわけでもねえんだ。しばらくは(イェン)のところで厄介になるつもりだ」 「しばらくってどのくらい?」 「ん、まだはっきり決まっちゃいねえが、一、二年はこっちにいることになるかも知れねえな。まあそれも成り行き次第だが」 「ふぅん、そうなんだ。アンタ、皇帝様とは親しそうだけど、ずっと昔からの友達ってとこ?」 「ああ。(イェン)とはそれこそ物心ついた頃からの腐れ縁だ。幼馴染といったところだな」 「幼馴染か。どうりで広東語が流暢だ」  言語の話が出たところで、遼二はふと先程店先で出会った時のことを思い出した。 「そういえばアンタもえらく日本語が流暢だったが、ここには日本からの客も多いのか?」  店先で会った際、下男の(ジン)に聞かれないようにと広東語から日本語に切り替えて(イェン)と耳打ちし合った。それを聞いてこの紫月(ズィユエ)は咄嗟に流暢な日本語で話し掛けてきたからだ。 「日本からのお客ももちろんいるさ。割合で言えば多い方だね。英語圏も当然だが多いね。台湾は――中国語だから苦労はねえが、タイやインドネシアとかのアジア諸国全般からのお客もチラホラ来るからね。さすがに会話は苦労続きだけど」  それでもここへ来る外国からの客は一見も多く、大概は色目当てだそうで、言葉が通じずともそれなりに何とかなっているのだと言って紫月(ズィユエ)は苦笑した。 「そうか――。ここへ来る客ってのはえらく広範囲なんだな。けど、アンタのような立場ならある程度外国語にも精通してるんだろう?」  いったい何ヶ国語を操れるんだと興味深げに尋ねる。 「まあ、ある程度はね。でも分かるのは広東語と日本語に英語、あとはいわゆる片言さ。けど、それを言うならアンタの方こそ随分と広東語が流暢で驚きだよ」  いかに幼い頃からここ香港の周一族と懇意の仲だとしても、遼二の広東語は外国人が使う辿々しさは感じられない。何も言わなければネイティブと勘違いされても不思議はないくらいなのだ。

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