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「だが……正直に打ち明けたところで、どのみち周焔 が腹を立てることに変わりはなかろうが!」
どうせなら冰という少年をここから放り出して、自分たちは彼の行方不明には一切関与していないとする方が賢明なのではないかと言う。
「しかし頭目 ――。雪吹冰がここに売り飛ばされた経緯を周焔 に黙っているとは思えません。彼は見目が抜きん出ている分、年齢よりも大人びて感じられますが、実際は若干十七の少年 です。口止めしたところで婚約者である周焔 に問い詰められれば簡単に吐くでしょう。そうなれば『知らなかった』では済まされません。いずれにせよ周家を敵に回すことになり兼ねません」
それよりは潔く非を認め、謝罪金のひとつも包んで、『知らなかったとはいえ失礼をして申し訳なかった』と謝ってしまった方が穏便に済むはずだと力説した。いわゆる『自首』である。
「冗談ではないぞ! そんなことをすれば、あの周一族に大きな借りを作ることになる! それよりは……この際そのガキを始末してしまう方が得策か……」
始末とはまた極端なことを言い出す。
「お待ちください頭目 ! それこそ非常にまずいことになります。雪吹冰は北宿舎で教育中の者たちの間で既に顔も割れております。彼一人を始末したところで完全に隠蔽できるものではございません。北の宿舎には現在教育生が五人。始末するというのなら、全員を葬らねばならなくなります。彼らが将来稼ぎ出す金額と雪吹冰一人の謝罪金、比べなくともどちらが得か損かは一目瞭然です!」
ここはひとつ謝罪金で穏便に済ませるのが一番の得策であると力説する。
「クッ……謝罪金とな。まったく! 面倒を増やしてくれたものだ!」
こうなったらその謝罪金を女衒 から踏んだくってやると憤る羅辰 を、紫月 は丁寧に頭を垂れながらチラリと見つめていた。
「お頭目 、後のことはこの私にお任せいただければと存じます。謝罪金についてはお言葉通り女衒 から巻き上げるのも確かに名案です。到底足りないでしょうが、その分は私が何とかいたします。頭目 には決してご面倒をお掛けすることのないようにいたしますゆえ――」
「お前が何とかするだと? ふん――!」
苛立ちながらも羅辰 は言った。
「では任せよう。だがな、紫月 。いくらこちらが素直に謝ったところで、事が事だ。あの周一族がただで引き下がるわけもなかろうよ。必ずと言っていいほど法外な謝罪金を要求してくるのは目に見えている。女衒 から踏んだくるにしてもたかが知れてる。不足分はお前に身を売ってでも揃えてもらうぞ?」
それでいいなら好きにしろと言い放った男に、紫月 は「御意」と言って頭を下げた。
「では――とにかく雪吹冰を連れて周焔 殿にお返しに上がって参ります。今日のところは何をおいても彼をお返しに上がったと言い、詫びについては追々改めてということで、それ相応の対応をさせていただく旨だけお伝えするといたしますので」
丁寧に頭を下げてこの場を後にしようとした紫月 に、男は苦々しい顔で皮肉をぶつけた。
「待て紫月 。それはそうと――父親には会っていかなくて良いのか?」
そのひと言に紫月 は一瞬歩をとめた。
「いえ――今は一刻も早く周焔 殿に詫びるが大事。父にはいつでも会えますゆえ」
いつもの耳心地好いテノールを幾ばくか低くして紫月 はそう言った。
「いつでも会える――とな? はたしてそうかな?」
羅辰 は羅辰 で挑戦的な皮肉顔で笑う。
「父と私は親子ですから。当然会えますよ」
単に忙しくてしょっちゅう行き来している暇がないだけだと言う。背を向けたままそう言い残して立ち去ろうとする紫月 に羅辰 は苦々しくも小さな舌打ちを放ってみせた。
「ふん! 相変わらずに親子揃って殊勝なことだな」
「――恐れ入ります」
意味深な嫌味を右から左へサラリと流して、平静を装いながらも紫月 は密かに羽織物の中で拳を震わせたのだった。
◇ ◇ ◇
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