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「……チッ! それで、その男子(おのこ)周焔(ジォウ イェン)の婚約者というのは間違いないのか?」 「はい、既に裏は取ってございます。間違いなく周一族のご次男・周焔(ジォウ イェン)殿の婚約者です」 「――クッ、そいつは確かに厄介なことだ。それで、いったいその男子(おのこ)というのは誰なのだ」 「名は雪吹冰。現在、北宿舎におります」  それを聞いて男はまた一度険しく眉根を寄せた。 「北宿舎だと? ……ッ、それはまた……より一層厄介な……」  北宿舎に振り分けられた者は容姿の抜きん出た粒揃い、いわば金の卵だ。ゆくゆくはこの遊郭街の稼ぎ頭になる者たちだからだ。 「雪吹冰というと……アレか。確かえらく見目の良い息子だったと記憶しているが……。本当に間違いないのだな?」  女衒(ぜげん)に連れて来られた時点で羅辰(ルオ チェン)自身が一度は必ず売られた者たちの資料に目を通す。特に見目良い者については記憶に残るというわけだ。彼にとってそうした新人たちは将来(ふところ)を温めてくれる大金としてインプットされるゆえ、当然憶えもめでたい。  いったいどういう経緯でここに売られて来たのだと羅辰(ルオ チェン)は憤りを見せた。 「雪吹冰が連れて来られたのは今からひと月ほど前のことです。女衒(ぜげん)を介して預かったと聞きました。書類が上がってきた際、私自身も当初はまったく気付きませんでしたが、少し前から周家の許嫁(いいなずけ)が行方不明になっているという話が耳に入って参りました。しかもどうやらこの九龍城砦を治める周一族のご次男――つまりは城壁の皇帝と呼ばれる周焔(ジォウ イェン)殿の婚約者らしいというのが分かりました。遊郭(この)街は女衒(ぜげん)が方々から拐って来た者たちで成り立っているのは事実です。万が一その中に婚約者という少年が紛れ込んでいればいけないと思い、念の為と思って調べを進めましたところ、雪吹冰がその婚約者で間違いございませんでした」  これは一大事と思い、こうして参上した次第ですと言って紫月(ズィユエ)は頭を下げた。と同時に、自分の不手際で頭目(かしら)にもご心配を掛けることになってしまい申し訳がないと付け加えるのも忘れない。  そんな紫月(ズィユエ)の態度に多少は溜飲が下がったのだろう、『お前のせいではない』と言って羅辰(ルオ チェン)はひとまずの理解を示した。 「別にお前一人のせいではない。……せいではないが、しかし周焔(ジォウ イェン)の婚約者となると確かに厄介だ……」  どうしたものかと思う傍ら、金の卵をみすみす手放すのも惜しいと憤りを見せる。そんな羅辰(ルオ チェン)紫月(ズィユエ)は平静を装ってひとつの提案を示した。 「こうなったら致し方ありません。私が直に皇帝様に会いに出向いて事実をお伝えするしかないかと――」 「事実を伝えるだと!? 金の卵をみすみす手放そうってのかッ!」 「――惜しいことは重々承知でございますが、このまま知らなかったということにして隠し通したとして、後々雪吹冰の存在がこの遊郭街で名を成した場合は遅かれ早かれ皇帝様のお耳にも届きましょう。そうなれば最悪の結果となることは目に見えております。ですが、今ならばまだ雪吹冰は男娼としての披露目をしていない教育期間中の身です。当然色も売っていない穢れを知らぬ身――。打ち明けるには今をおいて機会は無いかと存じます」 「クッ……」  確かに紫月(ズィユエ)の言う通りだ。

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