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一方、僚一の方は紫月 からの言伝を受けて、自然とゆるんでしまう頬を抑えられずにいた。目元には不敵な笑みが浮かび、自然と口角も上がる。
(やはりか――思った通りヤツは変わっていない)
高揚する気持ちを抑えられずに、珍しくも心が躍るようだ。
どことなくウキウキとした父の様子に、息子である遼二は不思議そうに首を傾げるばかりだった。
「親父……会えることになったのか? その、飛燕っていう紫月 の親父さんに」
「ああ。やはりヤツは二十四年前と変わらずにいてくれたようだ。三日後に落ち合おうと言ってきた」
「――! 本当か!」
場所は? と瞳を輝かせる。
「男遊郭の朱雀館だ。遼二、お前にも付き合ってもらうぞ」
「もちろん! 喜んでお供さしてもらうぜ!」
それで算段は? と訊く息子に、僚一は事細かに段取りを説明してみせた。
「朱雀館というのは男遊郭の中でもほぼ最奥にある妓楼だそうだな? 焔 からここの遊郭街の並びは聞いている。そこに三日後の亥の刻だ」
最奥といえば色を売る専門の店が立ち並ぶ区域だ。当然か、紫月のいる椿楼と比べれば天と地ほどの違いがある――いわば混沌としたスラム区といえる。
「ヤツからの言伝によれば、そこで花見の枝を折れとある」
「花見の枝を折る? どういう意味だ」
「騒ぎを起こせという意味だ。朱雀館には目立たない身なりで行き、酒に酔ったふりをして男娼に絡み、妓楼側が手を焼いて仲立ちの用心棒を呼ぶように仕向けろということだ。妓楼からの要請があれば飛燕は堂々とその場に出向いて来られる。これは俺の勘だが、ヤツはその騒ぎの隙を縫って何か俺に伝えたいことがあるに違いない」
裏を返せばそうした騒ぎに乗じてしか伝えられない密談と受け取れる。頭目たる男の目を盗み、極力疑われない状況を作った上で何かの情報を伝えてよこす必要があるのだろう。やはり飛燕はこの遊郭街において相当重要な機密的事項を掴んでいるに違いない、僚一はそう踏んでいた。
「遼二、お前さんも面が割れねえようにきっちり変装を心掛けてくれ。もしかしたらこれを機に遊郭街の治外法権に大きなメスを入れることが叶うやも知れない。腹を据えてかかるぞ!」
「分かった! なら俺は初老にでも化けるぜ」
「そうだな。それが良かろう」
乗り込むのは僚一と遼二の二人。予想外の窮地に陥ることを鑑みて、念の為に外堀は日本から共に連れ立って来た組番頭の源次郎に固めてもらうことにする。むろん、周隼 と焔 にも手を貸してもらい、万が一を考えて紫月 の警護も手厚くすることに決めた。
三日後、亥の刻、朱雀館――。雪吹冰の失踪事件をきっかけに、思いもよらない大きな緞帳の幕が今ここに上がろうとしていた。
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