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「親父……」
「すまなかったな、紫月 ――」
私は厳しいだけの父親だった。
だが、それで良かったと思っている。ともすれば生死が紙一重のような特殊なこの街で、お前が自分の身を守れるように導くことが何より重要だった。
敢えてやさしい言葉をかけずにきた。
敢えて微笑まず、あたたかな触れ合いを持たず、ただただ厳しく接してきた。
瞳を細めて我が息子を見やる飛燕の傍らで、僚一が彼に代わって静かに告げた。
「そうか――なるほどな。あたたかい感情は時に強い信頼や絆を生むが、同時に脆さにも繋がりかねない。ましてや命がかかった絶体絶命の中にあっては、時に恨みを伴うくらいに厳しい感情を植え付けた方が結果的に身を守れることに繋がる場合もある。お前さんは紫月 が無事で、一日でも長く生きられるなら、自分自身が嫌われることも恨まれることも厭わなかったということか」
そうであろう? と、交互に父子を見やった。
「うむ――そんなに格好のいいものではないがな。ただ……今こうしてあの羅辰 から解放されてみれば、紫月 には辛い思いしかさせてこなかったと……申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
すまなかった、そう言って飛燕はそっと息子の肩に手を置いた。
「親父……」
「紫月 ――。ずっと……抱き締めてやりたかった。思い切り甘やかしてやりたかった」
「ンな……の、俺ン方こそ……親父の背負ってきたもんを……全然気付かずにのうのうとしてて……」
馬鹿だ、俺――!
「ごめんな、親父……。俺、俺……」
ポロポロと美しい頬を濡らして紫月 は泣いた。
「謝るのは私だ、紫月 。よくぞ今まで厳しい稽古にもついてきてくれた。結果として、お前は私の意を汲み取ってくれた。先程の剣捌き、実に見事であった。今、こうして皆が無事でいられるのもお前のお陰だよ」
「親父……!」
飛燕は思い切り紫月 を腕に引き寄せ、その思いの丈を吐き出すように万感込めて抱き締めた。強く強く、二十四年分の思いをすべて捧ぐように抱き締めたのだった。
そんな二人を囲みながら、皆もまた誘い涙に男泣きを噛み締める。とかく遼二にとっては紫月 さながらにあふれ出る涙を抑え切れなかったようだ。
(良かったな、紫月 ――! 親父さんと心が通じ合えて、本当に良かった……!)
拭い切れない涙に焔 がそっとハンカチを差し出す。
誰の胸にもあたたかな灯が点る、そんな瞬間だった。
ひと時、泣き濡れた後に紫月 がハタと気付いたようにして父の飛燕を見つめた。
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