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「あの男も都合よく金を生み出す駒のひとつに過ぎん存在だったのだろうな。だが、まあ……組織にとってはその資金源を失うことになるわけですからな。あの羅辰 を追い出したことでこの遊郭街は救われたとしても、ゆくゆく周一族に対して報復に出てくる可能性も考えられる。そこのところは申し訳ない思いでいっぱいです」
飛燕はそう言って頭を下げた。だが、隼 や焔 は心配ないと言って飛燕に頭を上げてくれるよう宥めた。
「それについては問題ない。確かに報復の可能性が無いとは言い切れないが、デスアライブは国や地域の単位で面子を気に掛ける組織ではないのでな。今すぐにどうこうということはないだろう。いずれ何かの形で報復が成されることがあったとしても、あとは私たちの問題だ。あなたとご子息の紫月 君にはどれほどこの遊郭街の者たちを救っていただいたことか。心から感謝している」
「頭領 ・周 ――もったいないお言葉、恐縮にございます」
飛燕も紫月 も揃って頭を下げた。
「それはそうと飛燕。お前さんたちはこれからどうする」
ここでの拘束から解放された以上、やはり日本に帰るのかと僚一が訊いた。
「残念なことだが、御祖父殿は十年程前に亡くなられた。だが、親父さんは息災でいて、今もお前さんの実家の寺で住職をなさっていらっしゃるぞ」
「そうか――。親父には心配を掛けてすまないと思っている。やはり日本に帰って顔を見せるべきであろうな」
自身の無事はもとより、孫である紫月 の成長した姿を見せてやりたいと思うのは当然であろう。
「では私も同道しよう。この二十四年という長い年月の間のことを親父殿に分かってもらうには、お前さん一人ではいかにも気の毒だ」
僚一はそう言い、一旦飛燕らと共に帰国することを決めた。とはいえ、羅辰 のいなくなった遊郭街を周家と協力して一から建て直すという大きな仕事も残っている。飛燕の他にも春日野夫妻はじめ、この遊郭街に無理やり連れて来られた者たちが今後どうしたいかも含めて意見を聞き、女衒 によって拐われて来た少年少女らも解放しなければならない。現役の遊女男娼として既にこの街で生計を立てている者らにとっても然りだ。この街に生きる全員がここを逃れて生きたいと言う可能性も考えられる。
そうなればひとつの街が消滅することも視野に入れ、人が居なくなったこの街を今後どのようにしていくべきか、それは頭で想像するよりも遥かに大きな課題といえる。
飛燕らを日本に送り届けた後、改めてこの香港に帰って来ると言った僚一に、隼 と焔 も心強いと頭を下げた。
結局、飛燕と紫月 、それに春日野夫妻と菫 は一旦帰国することになり、囚われていた地元香港の者たちにはそれぞれの希望を聞きながら今後のことが話し合われることとなった。この砦内を仕切る焔 はもとより、周家が一丸となって対応に追われることとなったのだった。
◇ ◇ ◇
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