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 それからひと月も経つ頃には遼二の事務所となる建物の棟上げも済んで、新しい体制に向かい歩み出していた。  もしかしたら街自体が消滅してしまうかと思われていた遊郭街の方も、引き続きここに残って生きていきたいと言ってくれた者たちによって、何とか再建の目処が立ち始めていた。  各妓楼の主人(あるじ)らにしてみれば、今更この稼業以外に移れと言われたところで逆に路頭に迷ってしまう。是非ともこのままここでの生活を続けていきたいと申し出てくれる者が殆どだった。そして、それは遊女や男娼にしても同じくだった。色を売るということに関しても、誇りをもってやっていきたいと言う者もいた。彼ら曰く、実のところ他の仕事よりも稼げるこの仕事は魅力であるし、客との駆け引きなどが楽しいのだと言ってくれる者もいたそうだ。女衒(ぜげん)による強制的な拉致は撤廃され、遊郭街は新たな未来に向かって漕ぎ出そうとしていた。  紫月(ズィユエ)は男遊郭を治める(おさ)として正式に就任し、(ジン)もこれまで同様その補佐に就くことが決まった。女遊郭の方も頭を務めてきた酔芙蓉という女が引き続き遊女らを束ねる長となった。  飛燕もまた、息子の紫月(ズィユエ)を補佐しながら遊郭街の揉め事の仲立ち役としてお役目様を続けるそうだ。  加えてもうひとつ、地上の方の九龍城砦内で医師として活躍してくれていた(デェン)一家にも、この地下街含めた砦専属の医師として従事してもらえるよう、周隼(ジォウ スェン)から直々の願いが下されることとなった。とりわけ若き鄧海(デェン ハァイ)鄧浩(デェン ハァオ)の兄弟は(イェン)の邸内に住居を与えられ、春日野夫妻らと共に尽力してもらうこととなった。  そして、新たにこの香港にて事務所を構えることが決まった遼二の任務は、(イェン)の懐刀として遊郭街を含めた地下街全体の統治に尽力することだ。むろんのこと、日本に拠点を構える父親と連携した始末屋としての仕事にも従事していく。  かくして九龍城砦地下街は若き(イェン)ら若人たちの新しい体制の下、これまで以上に勢いのある世界屈指の遊興街として再出発することになったのだった。 第一章 - FIN -

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