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「まあいいわ。あんたたちがどんな関係だろうがアタシには関係ない! 興味もないわ。でもね、白蘭 。フレイの信頼を失った代償は払ってもらうわよ。アタシにだってプライドってものがあるの! このままじゃ腹の虫が治らないわよ!」
つまり、あと数人は太客を回すなりしてもらうわよと言いたげなリリーに、白蘭 という女はそれでいいと素直に折れた。
「あなたに嫌な思いをさせてしまったことは謝るわ。お客様ももちろんお譲りする……。だけどこれだけは信じて……。私と彼とは本当に……」
リリーにとってはもはや彼女と焔 がどんな関係なのかなどどうでもいいことだ。嘘をつかれた、イコール結果的に焔 の信頼を損ねたということが何より腹立たしいわけだ。
「アタシはね、白蘭 ! フレイをお客以外の目で見たことは一度もない。当然恋情なんて皆無だわ。でもね、白蘭 ! 長年掛けて培ってきた信頼を壊されたとあっちゃ、アタシのプライドが許さないのよ! あなたも知っての通り、あのフレイはこの地下街の統治者よ。そんな彼の信用が有る無いはアタシ自身の信頼とイコールなのよ!」
「リリーさん、本当に悪かったと思ってるわ。明日までにはお客様をあなたのお店に回します……。でも私が持ってるお客様はあと三人が限界なの……それで許していただけませんか?」
「三人――?」
「それで足りなければお金も……。少ししか無いけれど現金も積むわ」
「現金ですって!? 冗談じゃないわよ! そんな物受け取ったらまるでアタシがあなたを脅している悪者に映るじゃないの!」
「……ごめんなさい……そんなつもりじゃないの。お客様を回す代わりにと思っただけよ」
「まあいいわ。お客様の数はあなたに任せるわよ。とにかく現金は要らない! 今回はあなたが持ってる残りのお客様、それで手を打ってあげるわ。けど、もう金輪際あなたとの付き合いはごめん被るわ!」
「ええ……分かりました。それで……最後にあとひとついいかしら」
「なに?」
「今回のこと、あの人には……フレイムには私のこと……言わないでいただきたいの」
つまり自分の名前は出さないでくれ、そういう意味か。リリーはすっかり呆れてしまった。
「別に構わないけど。言ったところでフレイには言い訳がましい女だって思われるだけでしょうし。でも白蘭 、あなたそんな調子でいったい何がしたいのかしら?」
他人に冰を脅すなどという汚い役目を押し付けておいて、自分は綺麗な印象のままでいたい。そんな女を焔 が本気で愛するわけがない。まあリリーにとってはどうでもいいことだ。
「とにかく――あなたとはこれっきりよ!」
リリーはもう口をきくのも嫌になり、ツンと唇を結んで店へと帰って行った。
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