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 その夜、(イェン)は遼二と共にクラブ・ルーシュを訪れたが、生憎リリーは客との同伴で留守にしていた。いつもリリーのヘルプで席についてくれる馴染みのホステスが相手をしてくれたのだが、ここで意外な収穫を得ることが叶ったのだった。女は夕方リリーが白蘭(バイラン)という女と路地裏で言い争いをしているのを聞いていたというのだ。 「とにかくリリー姉さんのお怒りはすごかったわ。彼女のせいでフレイム様の信用を失くしたって、そりゃあもうすごい剣幕だったもの」  声をひそめてそう言う。 「相手の女だが、白蘭(バイラン)というホステスに間違いはないのか?」 「ええ、アタシは柱の陰にいたから――顔はチラッとした見なかったんだけど……。姉さんもはっきり白蘭(バイラン)って言ってたもの」 「その白蘭(バイラン)だが――どんな女なのだ」 「どんなって……そうねえ、アタシも直に話したことはないけどジュエルではそこそこお客を掴んでるホステスじゃないかしら」  リリー姉さんとも知り合いなくらいだものと女は言う。 「おとなしそうだけど男好きはするタイプよね。リリー姉さんはどっちかっていったらこの世界でバリバリのやり手っていう雰囲気だけど、あの白蘭(バイラン)って人は姉さんとは違うタイプっていうか、派手さはないけど逆に純情そうなところが男心をくすぐるっていうか」  彼女曰く、グイグイ前に出ていくタイプではないように見えて、裏では案外したたかに立ち回っているような印象も受けるらしい。ナンバーでいえば中堅クラスにいるらしいが、持っている客の数は少なくともそれぞれが結構な太客のようだというのだ。 「殿方には分からないかも知れないけど、女同士だと表面だけじゃ見えない本質みたいなのが本能で感じられちゃうところもあるのよねえ。あれはどっちかっていえば女の敵タイプって感じよ」 「女の敵――ね」 「とにかくフレイム様も気をつけた方がいいわ。アタシからすればリリー姉さんの方が絶対信頼がおけるもの!」  だから姉さんのことを嫌わないであげて! と、女はチャーミングに笑ってよこした。  結局、リリーとは会えずじまいで店を後にしたものの、白蘭(バイラン)という女が根源だということは掴めた。 「この後どうする? その白蘭(バイラン)って女を訪ねてみるか?」 「そうだな。なぜリリーを使って冰を追い出すようなことをさせたのか、直接本人の口から訊いてみる必要があろう」  放っておいてこの先また冰に危害が無いとは言い切れない。早い段階で女の真意を探っておくのは必須だ。二人は白蘭(バイラン)が開いているというワインバーの方から当たってみることにした。  ところが――だ。  ワインバーへ向かう途中で側近の(リー)に呼び止められて、白蘭(バイラン)を訪ねるのはやめた方が賢明だと引き止められることと相成った。

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