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老板(ラァオバン)、遼二殿、あの女性に会われるのはおやめください。彼女は少々厄介な女です」 「(リー)――! お前さん、どうしてここに?」 「老板(ラァオバン)がルーシュへお出掛けになったとうかがって、後を追って参りました。実は遼二殿の調査と合わせて私の方でもあの白蘭(バイラン)という女について調べを進めましたところ、素性を含めた思惑が分かって参りました」  ご説明しますので、とにかく一旦お邸へお戻りを――と言われて、二人は李と共に帰宅することにした。  (イェン)邸――。 「老板(ラァオバン)、あの白蘭(バイラン)ですが――老板(ラァオバン)の通っていらした高等学校の後輩だということが判明いたしました」 「後輩だと?」 「はい。私も同じ高等学校の出ですので、以前の学友や後輩に当たって少し調べを進めておりました。あの女の本名は何梓晴(ファー ズーチン)老板(ラァオバン)の二学年下の後輩でした。当時の同級生らを当たったところ、どうやら白蘭(バイラン)老板(ラァオバン)に尋常ならぬ想いを抱いていたようです」  尋常ならぬ想い――とは、つまり恋情ということか。 「どうもただの恋情ではないようなのです。そもそも彼女が老板(ラァオバン)に想いを寄せるようになったきっかけは、学内で老板(ラァオバン)があの女をお助けになったことが発端のようです」 「助けた? 俺が――か?」  (イェン)に心当たりは無いようである。 「老板(ラァオバン)にとっては些細な出来事だったのかも知れませんが、当時あの女は上級生の男からしつこく追い回されていたことがあったようです。男は再三に渡って交際を申し込んでいたようですが、女にその気はなく、学内でも執拗に追い回されて苦労していたようです」  ところがある日の放課後、いつものように男から逃げる途中で階段から足を踏み外し、そこへ偶然通り掛かった(イェン)が彼女の落下を受け止めたというのだ。 「追い掛け回していた男の方も老板(ラァオバン)が女を抱きとめた現場を目の当たりにして、相手がこの香港の権力者・周焔(ジォウ イェン)殿であることを悟ったようです。それ以来、男は彼女を諦め、結果的に女は救われたということになったわけです」  そこまでなら普通に有り得ることだ。女は救ってくれた(イェン)に感謝しただけで終わっただろう。 「ところが女の方ではそれをきっかけに老板(ラァオバン)に恋心を抱き始めたようなのですが……」  それが次第に想いを募らせていき、挙句は(イェン)が自分に好意を持ってくれているから男に圧力を掛けてくれたのだと思い込むようになっていったらしい。 「彼女が勘違いをするきっかけとなったのは、周りから囃し立てられたのも大きな原因だったようです。彼女を追い掛け回していた男がすぐに手を引いたこともあり、老板(ラァオバン)と彼女の間には何か特別な関係があるのではないかとの噂が立ったというのも大きいのではないかと――」  その気になった女は、以来(イェン)への想いを募らせていったようだというのだ。  確かに(イェン)は見た目からして男前であったし、香港マフィア頭領(ボス)の息子だということで立場的にも非常に目立つ大きな存在といえる。女が好意を寄せる自体は有り得ないことではなかっただろう。 「問題は女の感情が常軌を逸した方向にいってしまったということです」  (リー)はその後の彼女の様子について更に説明を続けた。

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