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「卒業後、彼女は興信所に就職しています」 「興信所だと?」 「いわゆる私立の探偵事務所といった小さな会社ですが、そこで老板(ラァオバン)――というよりも周ファミリーについて執拗に調べを進めていたようです」  (リー)曰く、(イェン)が妾の子であることや、ファミリーの伴侶となった者には肩に字と同じ色の蘭の花の刺青が贈られることなどを調べ尽くしたようだというのだ。  事実、頭領(ボス)周隼(ジォウ スェン)――つまりは(イェン)の父親だが――彼の背中には(あざな)である黄龍(ウォンロン)を模った大きな黄色い龍の刺青が入っている。その伴侶である継母の肩には黄色い蘭の花が贈られていた。  兄の周風(ジォウ ファン)夫婦も同様である。兄の(あざな)黒龍(ヘイロン)だから背中には黒い龍の刺青、そしてその妻となった高美紅(ガオ メイフォン)の肩先には黒い蘭の花が贈られた。それがファミリーの証になるのだ。  もしも(イェン)が妻を娶れば、その肩には(あざな)である白龍(バイロン)と対になる白蘭(バイラン)の刺青が贈られるというわけだ。  そのことを突き止めた女は自らの源氏名を白蘭(バイラン)とし、ワインバーの店名を(イェン)(あざな)である白龍(バイロン)にしたというわけだ。 「興信所を退職した後、彼女はこの地下街のクラブで働き出し、その二年後にはワインバーを開き始めました。よほど老板(ラァオバン)に対する想いが強かったともいえますが、冷静に考えれば行き過ぎているように思えます」  つまり、尋常ではないということだ。 「だがな、(リー)――俺自身にはその女からただの一度たりと接触を受けたことがねえ。仮に何らかの想いを寄せているというのなら、告白のひとつもあっていいようなものだが」  だが、女が直に声を掛けてきたことはおろか、ましてや想いを打ち明けられたことなど一度もないというのだ。 「そこはあの女の性質――というよりも過去の出来事が起因しているものと思われます。彼女は老板(ラァオバン)に助けられるずっと以前、中学校時代の話ですが教師に恋情を抱き失恋を経験していたそうです」 「教師に失恋?」 「ええ。当時教師は同僚の女教師と結婚したばかりで、当然生徒からの恋情を受け入れられるはずもありませんでした。ところが女の方では諦められなかったようで、その教師を夜の校舎に呼び出して付き合ってくれとせがみ、教師が断るとその場で自分の腕を斬りつけたそうです」  校内では女生徒が男性教師の前で自殺未遂を図ったと大騒ぎになり、教師は責任を取らされて退職を余儀なくされ、女の方も転校に至ったというのだ。 「それがトラウマとなってか、女は恋愛に臆病になったのではないかというのが当時の同級生らの見解でした。ゆえに老板(ラァオバン)への想いも直接伝えることを躊躇(ためら)ったのではないかと」  告白したところで、もしも想いが叶わなければ再び傷つくことになる。それが怖くて言い出せずにいたのではないかというのだ。  ただし想い自体は諦められない。だから興信所に就職して周一族について密かに情報を収集し、(イェン)のいる地下街のクラブに勤め、『白龍(バイロン)』などという意味深な店名のワインバーまで開いては(イェン)の方から興味を持って近付いてきてくれるように仕向けたのでは――というのが(リー)の想像だそうだ。

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