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「じょ、冗談じゃない……そんなことなら潔くここで始末された方がマシです! 不問とおっしゃいますが……手前にとってはそっちの方が始末されるよりも悲惨ッス! お身内に手を出しておいて……沙汰を選ぼうなんざ都合のいいことが通用するわけもねえと分かっちゃいますが……周老板 ……この通りッス! どうか勘弁してやってください……!」
懇願する彼に、焔 は間髪入れずにこう言った。
「殺 る気ならお前さんはとうにあの世だ」
「…………」
「不問の裏に他意はねえ。あの女が待つ車に戻ってここを出るもよし、女を置いて何処へなりと行くもよし。今後我々に付け狙われることはねえから安心しろ」
「……は、あの……」
「ただし――ひとつだけ誓ってもらう。今回の仕事、予定通りうちのボウズを始末したと女にはそう伝えろ」
「あの……それはどういう」
「お前さんは依頼を遂行してボウズを殺 ったと言えばいいのだ。それさえ守れば今回のことは綺麗さっぱり不問にしてやる」
「……分……かりました。そのように伝えます」
「よし。ではお前さんは無罪放免だ」
焔 は李 に向かって「縄を解いてやれ」と言った。
「待、待ってくだせえ……いったい……どういう」
「どうもこうもありませんよ。ボスのお言葉の通りです」
李 が縄を解きながら言う。
解放されたロナルドは、もはや何がどうなっているのかも理解できずに、混乱する頭を抱えながらふらふらとアジトを後にして行った。
「老板 、ヤツがこの九龍城砦を出るまでは監視をつけます」
「ああ、頼む。ヤツらがこの地下街を出たら、カネたちに言って女の方の見張りも解いて構わん」
女の見張りを解け――とはさすがにどうかと思ったようだった。李 は少々驚いたように瞳を見開きながら、「よろしいのでしょうか」と訊いた。
「構わん。あの殺し屋も冰を『始末した』ことは女に告げるだろう。仮に今後女が何らかのちょっかいを出してくるとすれば、この俺に直接コンタクトを考えるはずだ」
焔 にとって冰 への憂いが無くなればそれでいいのだ。
「それにな、李 。俺の勘が正しければ――黙っていてもあの殺し屋はこちらにとって不利になるようなことはせん」
「……つまり、あの殺し屋が自らの判断で女を始末するということでしょうか」
「始末するかどうかは分からん。一応仕事は無事に遂行したことになるわけだ。報酬だけはがっぽり受け取って、依頼者である女とは二度と顔を合わすことはないかも知れんし、或いは嵌められたと恨みに思って何らかの方法で女に仕返しを考えるかも知れん。それがイコール殺しとは限らんだろうがな。ただし、ヤツとて”腐っても鯛”という自負は持ち合わせているだろう。ファミリーにとって不利益になることはしねえはずだ」
焔 には確かな予感があるようだった。
◇ ◇ ◇
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